動物行動学の先駆者、ローレンツ博士の動物たちとの日常“珍”エピソード集。
私の大好きな1冊です。
ローレンツ博士の名前は知らなくても「ヒヨコの“刷り込み”行動」はきっとご存じだと思います。それを世に知らしめたのがローレンツです。
アルテンベルクの田舎村に住み、研究に没頭する彼は、一見白髪口ひげのいかめしい風貌の老紳士。しかし、彼の「奇行」に村びとは頭を悩ますのです。(笑) 博士の屋敷には、いろんな動物(ペット、半野生、野生動物含む!)が自由に出入りします。(また博士も人よりも動物とのコミュニケーションに長けているようで…)
屋敷を“カラス屋敷”にした初代コクマルカラスのチョック、ガンの子マルティナ、賢いオウムのコカ&パパガロ、努力で美人妻から略奪愛をした雌カラス、ある朝突然屋敷を去った美しいカイツブリの夫婦、危険な動物から身を守るため“檻”に入れられた博士の幼い長女‥

動物(特に鳥たち)の愉快でじんとするエピソードがぎっしりなのです。
人間の“個人”を覚え、ひどい目に合されると「あいつだ!」と“復讐”しかけない賢いカラス相手の研究。博士は、カラスに顔を覚えられないよう“変装”してカラスの巣の観察をするのですが、真夏の昼、真っ黒な祭り用悪魔の衣装に全身身を包み、屋根に登ってナニやらしている博士に、村びとは青ざめて鈴なり見上げて。博士はそんな純朴な村びとに悪魔のシッポを振ってあげるという大サービス。(すごい人だ)

また“刷り込み”発見のもとになった、ガンの雛・マルティナの“子育て”話も大好きです。
ハイイロガンの卵の孵化をじっと見ていた博士。生まれたばかりのマルティナは、ウィンクして(近くの物を認識する時、片目をつむるらしい)彼を見上げた感動的な瞬間が、恐るべき博士の“子育て”の始まりでもありました。マルティナは一時も博士から離れず、毎日湖まで彼女を連れてお散歩。マルティナは昼は2分おき(夜は1時間おき)に「ヴィヴィヴィ“お母さん、そこにいる?”」と呼びかけ、博士が「ガガガ“ここにいるよ”」と答えないと、彼女は「ママがいない!」と大パニック。しまいに博士は寝言で「ガガガ」と答えられるようになったんだとか。
そんなマルティナも大人になり飛び立ちますが、やがて素敵な夫(マルティンと名付けられる)を連れて屋敷に凱旋するのです。
『ソロモンの指環』の由来は、ソロモン王の持つ動物と会話できる魔法の指輪からちなんだもの。
ノーベル受賞者のローレンツは論文をたくさん出ており、どれも立派な文献です。が、この著作はそこからこぼれた彼の“秘密の宝石箱”のようなものでしょうか? 美しいアルテンベルクの自然、与えずでも裏切らずに生きる動物たち、素朴な村びと、聡明で変わり者、でも優しくユーモアセンスにあふれた老博士、そして愛する彼の家族‥。
初めて読んだのは私が高校生の時。偉大なローレンツ博士ももう亡くなりました。今みるとやや古い見解の話題も多いのですが、今でも私にとって大事な一冊です。

※早川書房/1963年発行、1998年文庫化
posted by 宮崎佐和子 at 23:41|
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