1ヵ月ほど前に、上塗りをしたもの。しっとりとしたいいニュアンスのある塗り上がりになったと喜んでいたのですが…

これが、失敗作となってしまいました。
こうして並べてみる分には、問題ないのですが…
こうして並べてみる分には、問題ないのですが…

裏に問題が。

がっくり…!
鎬のくぼみに、漆の“縮み”が
できてしまいました。

なぜこうなったかというと…
回転室に入れて乾かせていたのですが、ほぼ硬化してきて「よし、いいだろう」と、仕上げに強めの平室に移したのですが、この鎬の部分の漆にまだ流動性があって、下部にたまり、そして縮んでしまったのです。


この“縮み”、漆工芸をされた方なら、必ず体験されていることですが、知らない方がごらんになったら「えっ何これ?」って思われるでしょう。^_^:
漆は一定以上の塗り厚になるか、乾きが早すぎると、塗膜の表面だけが乾いて収縮するという現象が起きます。そのさじ加減がけっこう微妙なのです。
「いい感じに塗り上がった!」と思ったものに、縮みができたらがっくり。漆工芸をされている方の多くは「縮まず、塵がつかず、希望通りに“乾き”がきてほしい」と願いながら、塗った物を漆室に入れてらっしゃると思います。
これは手直しが必要なのですが、うちではどうしてるかというと…
きちんと乾燥させて、縮みを削り取ります。

左半分処理済み、今回はキサゲで削りました。
研究生時代、多くの方と同じように中国産漆で仕事をしていた時も縮みに悩まされました。当時の縮みといえば、その収縮した塗膜の外見は固まってても、その中は未乾燥。その未乾燥の部分が、1年以上経ってもなかなか硬化しなくてずーっとゲル状のままなのです。ちっとも作業が進まないので、結局は強い溶剤で剥いでしまっていました。
今はそんなことはなく、使っている日本産漆は、比較的短期間で漆が中まできっちり硬化してくれるので、カリカリと刃物できれいに削り取ることができます。
そして、再度塗り直します。(こうして調整できるのが、漆の楽しいところですね)
さてこの縮み、漆の特性の一つでけっこうユーモラスな表情もてきて、意図的に縮ませる…というテクスチャのテクニックも無いわけではないのですが、一般的には御法度。
しかも、今みたいな寒暖の差が激しい季節はよーく気を付けないといけません。
今度も、いい感じに塗り上がるといいんだけどなあ…
