2007年07月17日

■「かぐや草」さんと漆塗りの床。

昨日は、東京からのお客様と一緒に、東かがわ市五名の「かぐや草」さんに行きました。

7/17かぐや草1
こちらは、木工家の山地裕之さんの自宅兼ギャラリー、「かぐや草」。香川県と徳島県の県境というへんぴな場所にもかかわらず、多くの創作家やお客様が出入りしているスペースです。山地さんは、矢澤金太郎氏に師事した後に地元に帰り、染色家の奥さんの染仁さんと一緒に活動をされているのです。
山地さんは松本とは年も近く、話もすごく合うので(素材が好きなんですよね)仲良くさせてもらってます。そして、ここにおじゃますると、必ず長丁場に…。火がついた男二人は話が弾みすぎて日が暮れても帰りません…!!(奥さん、いつも御免なさいあせあせ(飛び散る汗)

7/17かぐや草2
ここは4年ほど前に、山地さん自らも参加して建てた家です。
建材は地元の木材を使い、建具や床も少しずつ手を加えて出来た手作りの家。久しぶりにいくと、さらに外壁も手を加えられていました。笑

7/17かぐや草3
「かぐや草」の中…。一つ一つの造作にこだわりがあります。このスペースに山地さんご夫婦の作品が展示されているんですね。^^
そして、この印象的な「床」は、日本産漆のみで仕上げられているんです。

7/17かぐや草4
もうすぐ1才になる長男、紘生くん。お父さんが大好き。はだしで元気にあちこちハイハイしています。晴れ


今思えば、もう4年近く前。(平成15年9月)
山地さんと松本との二人で、この漆の床材を建築地となりの倉庫で一緒に仕上げたのでした。その時の様子をちょっとご紹介します!

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7/17大森俊三の漆1
漆の準備の様子。
7/17大森俊三の漆2
使った漆は、岩手県の大森俊三さんの末辺漆(秋の漆)。3貫(約12キロ)使いました。

7/17床塗りの様子1
床材などに、漆を施すにはいろんな方法があります。
今回は、床に貼る前の状態の材に、先に漆仕上げをしました。そうでないと仕事が難しくなり、乾かす時も大変です。
漆の作業内容は、すり漆2回と塗り放し1回。全部の作業は屋外で行いました。
7/17床塗りの様子2
この床材は四国産の杉なのです。
地元の材を家に取り入れたい、という素直な気持ちは素晴らしいことです。(奥の建築中の建物は本宅のかぐや草。写真に写っているところが玄関になります)

7/17ブルーシート室1
さて、こうした野外の仕事の時にどうするかが「漆室」。
この時は、倉庫内に骨組みをした囲いを作り、そこにブルーシートで包んで「漆室」を作りました。その中に水を打ち、湿度を保ったわけです。
7/17ブルーシート室2
「漆室」の内部。漆塗りをした床材をこんなふうに並べています。


そもそも、こうなったいきさつですが…。
友人の山地さんが家を建てる、という話を聞いていろいろそのこだわりぶりを知ったのです。そこで、松本が「日本産漆の床にしない? 漆持ってくから、一緒にやろうや」と勧めてみたのでした。
お祝いがてら、もの作りの友人に実際に使ってもらって、率直な感想とかも聞きたいなあと考えたのでした。
ここは山地さん夫婦のギャラリースペースにもなっているので、作品とともにたくさんの方に見て実際に触れていただいているのです。

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さて、こんなふうにして漆塗りの床が誕生したのですが…。
どんな具合になっているかというと。
7/17漆塗りの床1
完成1年後の様子。色が濃く、そして艶があったのでとても重厚感たっぷりですが「お寺の床みたい…」との感想が。^^:

7/17漆塗りの床2
そして今回。かなり色が透けて木目がはっきりしています。

確かに漆塗りの床は美しいですが、場所によってはやはり気になるところもありました。日の当たるところは紫外線による劣化が激しいのです。

7/17漆塗りの床3
直射日光による劣化。

ここの家は今風に窓も広く日差しが床によく当たる場所があります。非常に強い素材の漆ですが、泣き所は日光。紫外線で分解されるのです。この部分は紫外線で杉材の表面塗膜がなくなり、表面がチョーキング状態に。材に漆が染み込んだ状態で、表面に保護膜がない状態になってます。こうなると材に直接汚れが触れて、染みが取れなくなってしまいます。(漆が変色したのではなく、漆が無くなった杉材に汚れが染みた状態)
解決法は、再び漆を施してやることでしょうか。
数年おきに塗り直しするか、直射日光が射さない部屋に使うのが長く楽しめて良いかもしれません。(障子があるだけでぜんぜん違います)

さて、ここの隠れたおすすめはお風呂!
7/17漆の風呂桶1
なんと大きな杉樽のお風呂なんです。
(完成1年後の写真)
もちろん、漆で仕上げています。

7/17漆の風呂桶2
私も入ってみたりして… うわわ気持ちいい!!

「これっていいんだよね、サッと拭くだけでぜんぜん
手間要らず。ラクなんだよね!」と山地さん。
いいなあ… 私のところも漆のお風呂にした〜い。


さて、私は「かぐや草」さんには出来てから一度も行った事がなかったので(作業中は何度も行ったのに…)家と暮らしをゆっくり見せていただくことができました。
知らない間にお子さんが増えて山地家はとってもにぎやかになって楽しそう。
7/17こうちゃん
プレゼントの栗の木漆スプーンで
ずっとおしゃぶりの紘生くん。
そんな使い道もあったのか…!!



※追加
以前から気になっていた「漆塗りの家にはゴキブリが出ない」という話。本当にそうかと疑問を持っていたのですが…。
山地さんに聞いたところ「ゴキブリ?出ないよ」とのこと。うわわホントなの?? もちろん、ホウ酸団子とかの駆虫は特にしていないそうです。


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posted by 宮崎佐和子 at 23:58| Comment(4) | TrackBack(0) | ■ 日記

2007年07月16日

■五色台のウルシ畑とニホントカゲ君。

今日は、東京からお客さんが来ていたので、五色台(高松市)にある工房の漆畑と、東かがわ市五名の「かぐや草」さんに行きました。
五色台の漆畑に行くのは、数ヶ月ぶり…(いつも日記で紹介しているのは、工房の隣りの庭に植えている漆の木なのです。将来、がっつり漆を採る畑は、高松にあるのです)

7/16五色台の漆畑1
    ↑これが漆の木。
しばらく見ない間に、ひえ〜1メートル以上ははあろうかという、巨大な雑草が伸びまくりです。あせあせ(飛び散る汗)(これが凄いんです)
ジャングル状態で、危なくて畑に入れず「うわ…」と上から眺めるだけに。ぜんぜん近寄れませんでした。もうやだ〜(悲しい顔)
7/16五色台の漆畑2
春先は、雨不足を心配していたんだけど、この梅雨で雑草とともに漆の木もすごく伸びていました。土が肥えているので両方よく育つんですね。^^:  さすがにそろそろ、草刈りしようかな…。


7/16ニホントカゲ1
ここで思わぬ「獲物」を捕獲。
ニホントカゲ君です!
(思いっきり噛まれましたが)

7/16ニホントカゲ2
山に住むトカゲで、街や平地で見かけることはありません。すばしこくって気の強いトカゲで、なかなか捕まらないのですが…ヤッタ〜。手(チョキ)
エナメルのような美しい金属色の体のトカゲさんで、この子はおとなですが、子トカゲはカワセミのような美しいコバルトブルーをしているんです! まるで「山の宝石」です。
この光沢のあるきれいな体、つるつるよく滑ります。だから、余計に捕まえにくいんですね。きっとヘビもこんな感じなんだろうなあ。(あ、カナヘビ君は滑らないので捕まえやすいです)

7/16ニホントカゲ3
早く離せよ〜〜
オレ様をカナヘビと一緒にすんな!ダッシュ(走り出すさま)



さて、この五色台の山は、土が肥えていてとても豊かでした。
トカゲさんだけでなくって、チョウも植物もぜんぜん平地と違います。でも、まわりはミカン畑なので山と言っても、ちょっと入っただけの所なんですが…。里山の自然っていいですね。ハートたち(複数ハート)

さて、あしたは「かぐや草」さんの紹介をしたいと思います。ここは、岩手県の大森俊三さんの漆で床を仕上げているんですね。^^
私も実際に出来上がったところはよく見ていなかったので、楽しみです。


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posted by 宮崎佐和子 at 23:58| Comment(2) | TrackBack(0) | ■ ウルシの木の記録

2007年07月15日

■和うるし作品「tea bowl」

7/15 tea bowl

「tea bowl」
2006年9月制作
漆/岩手県産うるし使用 木地/トチ 


すっぽりと両手のひらに包むようなお椀です。
高台が小さめですが、重心が下にあるので安定感があります。
フリーカップのように、抽象の柄が付けやすい形なので、いろんな模様のものを作りましたが、写真のものは、木地溜めと黒漆塗りのコントラストをつけた地に、銀彩で小さな文様を清楚にあしらいました。
地の黒漆のくし目描きが、よく効いていた1品でした。

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posted by 宮崎佐和子 at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ■ 和うるしの作品

2007年07月14日

■今年うまれのちびカエル君。

雨が降らない降らないとぼやいていたのがウソのように、香川もずーっと雨模様です。早明浦ダムの貯水率も、さすがに半分近くになったらしいです。(それでも半分なんですねあせあせ(飛び散る汗)
そんな工房の庭ですが、数日前からフレッシュな「新カエル」が登場してるんですね。^^

7/14カエル1
こんにちは。隣りの田んぼからやってきたチビです。
やっとシッポがなくなって、水から上がってきたよ。

7/14カエル2
一人前のカエルのつもりだけど、
まだ顔が「オタマっぽい」って言われるんだ… ちぇっダッシュ(走り出すさま)


新米アマガエル君、みんな、爪くらいの大きさしかありません。笑
この新カエル君が、庭のあちこちで闊歩??してるんですね〜夏だなあ。微笑ましいけど、がんばってたくましく生きてほしいです。

7/14カエル3
可愛い…ムード
それにしても、数日前まではシッポで泳いでいたのに
今は立派な足で飛び跳ねるなんてどんな気分だろう?


今年は、なんだかいきものが少ない年ですが、1週間前くらいから、やっとセミが遠慮がちに?鳴くようになりました。
どんな夏になるのかなあ。


posted by 宮崎佐和子 at 18:00| Comment(2) | TrackBack(0) |   漆の木の住人

2007年07月13日

■日本産漆の品質について/2

「高価な日本産漆でも、中国産漆より品質の劣るものがある」

前回、ちょっとショックを受けるような内容のお話を書きました。
なぜ、日本産漆といえども品質の大きな高低があるのか…。
でもそれを説明する前に、漆という素材がどんなふうに流通しているのか雰囲気だけでも知っていたほうが分かりやすいかもしれませんね。
なぜ、日本産漆といえども品質の大きな高低があるのか?
そのお話に入る前に、ちょっとその当たりの様子を少しお話しておきましょうか。^^

漆原料、漆塗料、漆樹液… 漆製品になるまえの「漆」は、まさに「水もの」といった形相を呈して、小さな漆工房のブログといえども公共の誌面で書くことためらわれる「暗部」がたくさんあります。漆の世界は、材料も技法もほんの少し前は極秘・秘伝だらけの世界で、そういった世界にいない人には容易にうかがい知る事のなかったものでした。
そしていまは情報がオープンになってきて、漆の世界に生きる人がかなり自由に物を語る時代になって、その中にも私たちがあるのですが…。
しかし、こういった話題はいまだタブーとされている部分があり、原材料の「漆液」に関しては、最たるものかもしれません。
ここで全てを語りきる、ということは決してありませんが、そういったところも、ふまえて読んで下さると幸いです。


日本産漆は、普通に入手すると中国産漆よりも価格が数倍〜10倍くらいします。(こうした漆塗料は、通常の業者さんや作家さんは『漆材料屋さん』や『漆精製業者さん』で購入します。画材屋さんの漆版みたいなところです。驚くほどきめ細やかなラインナップがありますが、最近はどこのお店も大変なようです)
これは、なぜかと言えばいろいろ要因があります。それらの要因は方向性が異なります。

・流通や物価差によるコストの違い


これはどなたでも想像できるように、日本と中国の人件費や
物価の違い等から生じる価格差でしょうか。日本に入る中国産漆の質が向上したのは、生産される中国産漆全般の品質じたいは変わらないそうですが、日本の漆業者さんによる現地買い付けや直接契約など、日本側の業者さんの企業努力が大きく関わっています。そしてそれを可能にした中国経済の自由化も背景にあります。

・日本産うるしと中国産うるしを分けて販売している


通常「日本産漆」と「中国産漆」は「別のカテゴリ」として分けられて販売されています。
漆材料のカタログを一度ごらんになれば分かるように、「日本産漆」と「中国産漆」は別項目でリストされています。これは本来の仕入れ価格差もありますが、やはり漆材料屋さんの中でも「日本産は別格」という意識が強く働いているのだと思います。
前回述べたように、唯一の品質基準である分析による成分数値はふつうされることはありません。成分分析は特殊なもので、研究などでしかされないものです。しかし、現物の漆を見れば、いわゆる「目利き」でかなりの判断できます。そもそも、以前は分析などなかった訳で、人の鋭い官能が基準でした。(粘度、のび、色、匂い等。以前は買う側も「目利き」で漆をよく吟味して買っていた。昨今は「漆を見ることのできる」人がいなくなった)
そして、漆は農産物に近くて、年によって出来不出来は大きく左右されます。そういった中で、「漆をみる」「目利き」の方が入荷されたそれぞれの漆を見て判断し、「中国産」「日本産」のそれぞれの枠の中で整合性を取りながらランクをつけて加工・あるいは生うるしのままで商品化しているものと思います。(ブランドの茶葉やコーヒー豆の調合のようなものではないでしょうか)

いろいろと述べてきましたが、こうして見ると材料としての漆樹液も、いろんな意味でそろそろ転換期ではないかなあと感じてきます。
そして、次の要因がたいへん重要です。私たちの案ずるところでもあります。

・高品質の漆を採る価値が、日本で認められていない


これは、どういったことかというと「漆かき職人さんが、どんなに頑張って品質の良い漆を採っても、生活できない」という背景があるのです。
以前「日本産漆の流通はわずか1トン強、中国産漆の100分の1」ということを書きました。(平成16年農林水産省の特用林産資料より、昨年の数値はまだ公表されていないが、日本産中国産とも流通量はさらに低下していると思われる)
なぜ、日本産漆の生産量は1トンそこそこしかないのか?
これも一般に大きく誤解されているのですが「日本産漆を買う人がいないから」なのです。決して「日本産漆は、引く手あまた」ではないのです。
このわずかな日本産漆も毎年売れずに残り、これで生活するどころか「もうワシの代で最後だから」と、おじいさんの漆かきさんが最後の誇りでやっているのにすぎない状況です。
後継者も育たず、産地も荒廃する一方なわけです… たった1トンの漆を、われわれ日本人がまったく必要としていないのですから。
なので、日本の業者さんや作家さんたちが日本産漆を使わないのは「生産量が少なくて手に入らない」という理由ではなく、もっと別のところにあります。(コスト面も大きいですが…それだけでもないのです)

したがって、こんなに仕事を認められていない(売れないとはそういうことです)漆かきですから「いい漆を採ろう」という意欲が薄れていくのはしかたありません…。そして、漆樹液産地でもあんまり縮小すると(例/漆かきさん数人の産地・うち漆を掻いている人1名、他は休業で農家など他の仕事をしている)同業者がいない状態なので、他の人よりもいい漆を採ろうという競争心は育ちにくい。とりあえずキズを付けて漆を採っているだけでも「よくやるなあ」という感じなのです。
こういった産地の衰退は悲しいほどで、浄法寺の小さな村でも漆かきさんが500人くらいいた時代があり、中でも腕のいい漆かきさんは「漆を3年掻けば家が建った」というのが信じられないほど。
でも、こういった状況は漆に限らずほかの日本独特の素材も同じようなものでしょう。
日本の魂が失われていくようで、なんとも言えないものがあります。

でも、そんな悲しい現状の日本の漆…
しかしがっかりしないでください。日本には「わあ、すごい!」という素晴らしい漆と、そんな漆を採る人がまだいるのです。
そんな漆に出会えたからこそ、私たちが日本産漆だけで頑張って行こうという気持ちになっているのです。
それとからめて、なぜ、日本産漆といえども品質の大きな高低があるのかの説明をしていきたいと思います。


それにしても、こういった話題はとっても神経を使って消耗します。
また、限られた文章で見る方がどういった印象を持たれるのか気になります。意図や説明をただしく受け取ってくれていただいているといいのですが… でも、そろそろこういった部分にも光を当てていく時期だと思いますので、少しずつ続けていこうと思います。
(続く)


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posted by 宮崎佐和子 at 22:15| Comment(2) | TrackBack(0) |   思うこと

2007年07月12日

■松本の漆かぶれ。

松本が、かなりの漆かぶれをつくりました… あせあせ(飛び散る汗)
患部は「お腹」です。

7/12漆かぶれ・うるしかぶれ 
漆の付いた部分(黒い部分)は
縦4センチ、幅1センチくらい。


すり漆の作業をしていて、漆のしずくがTシャツの上に落ちたらしいです。(^_^:) それにしてもみごとなしずく型に… 笑。
しかも、作業が終わってお風呂に入ってて『あれれ??』と気づいたんだとか。
漆の付いた黒い部分の周辺が赤く腫れていますが、これは掻いたりしたのではなくって、漆の付いたまま着ていたTシャツが肌の上でこすれて周囲が連動してかぶれたらしいです。
このかぶれを見て松本は
「これはまた皮膚が剥がれるな…」とぽつり。
うわ〜〜そんなものは見たくないなあ。ふらふら

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posted by 宮崎佐和子 at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) |   漆かぶれについて

2007年07月11日

■日本産漆の品質について/1

「日本産漆を使っている器…それなら、品質のいいものですね」

漆の事をよくご存知でない方でも、自然にそういった印象をもたれることでしょう。
以前「日本産漆は、中国産漆よりも価格が数倍〜10倍高い」ということを述べました。そう聞くとますます「そんなに高価なものなら、さぞかし日本産漆は良いものだろう」というイメージをさらに強くしてしまうことと思います。

日本産漆は、そんなに「品質」が良いのでしょうか。
そもそも天然うるしの「質が良い」とはどういったことなのか…。

そんな疑問も浮かぶことでしょう。

漆にたずさわってらっしゃる方の大半は、中国産の天然漆を主流にお仕事をされていると思います。長年されている方でも「質の良い漆」とは何かと明確に答えられない方がほとんどだと思います。(でも、好みの漆、使いたいと思う漆ははっきりされてるのではないでしょうか。乾きの早い漆、締まりの良い漆、塗り厚がついて縮みにくい漆、透けの良い漆、等)
そして「品質のよい漆」にこだわるよりも「使いやすい漆」「自分の仕事と波長の合う漆」に重きを置いてることと思います。そうでないと、気持ちよく仕事ができないし、何よりも計画通りに作業が進みません。納期に影響するのは、とても重要なこと。展覧会の搬入日や、作ったものの納品日に間に合わないのでは話になりません。

ここまで読むと「あれ?」と思われるでしょうか。
漆樹液の品質は、一般にはあまり重要視されていないのです。
そして「品質」の基準もそんなに明確ではないのです。



そんななか、「質のよい漆」の目安が一つだけあります。
漆の成分分析で、

・主成分のウルシオールが多いこと
・水分が少ないこと        
です。

そもそも「うるし樹液」は、油分(天然樹脂)であるウルシオールと水分、そしてゴム質(糖分等)のエマルジョン。牛乳(乳脂肪分と水分)やマヨネーズ(サラダオイルと酢)をイメージしていただければ分かりやすいでしょう。
このウルシオールは、漆独特の美しい天然樹脂で、これが漆の漆たる成分。(かぶれのもとでもあります)
このウルシオールが、日本産漆には多く含まれているとされてるのです。
一般には日本産漆には60〜70%、中国産漆には50〜60%、ウルシオールが含まれているものと言われてます。(あくまでも目安としてごらんください。文献によって数値がかなり異なります)
そして水分。
水分は、文字どおり「水」です。一般に塗りで使われる「精製漆」は、なやしくろめという作業で内容を均一にし、水分をあるていど飛ばしたものですが「水」が多いと当然、仕上がった精製漆の量は減ってしまいます。つまり「水分」の多いウルシは、その分「水」を買うようなもので、そういった意味では敬遠されます。
ただこの「水分」、漆が木の樹液という天然物だということを考えると、ある程度必ず入るもの。そして、漆の仕事に重要な「乾きの早さ」にも大きく関係するので(水分が多いと乾きは早くなる)いくらかは必要な成分とも言えます。
この成分パーセンテージは、試験や研究の時など、非常に限られた場合しか分析されません。市場で出回る天然うるしの大半は、分析にかけることもなく、精製漆(赤呂漆・黒呂漆等)に加工されて卸されたり、ごく一部生うるし(荒味漆、下地用生うるし)のまま販売されていたります。

さて、漆は木の樹液…ということをさっき述べました。
私たちの体の血液のようなものかもしれません。
血液は、人によって成分バランスが少しずつ違ってて、同じ生活をしている家族であっても、成分パーセンテージが全く同じということはありえないと思います。そして、同じ人でも年齢や季節、体調によって微妙に変化があることでしょう。
…そういえばピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんね。

漆樹液も成分パーセンテージは同じではないのです。
日本産うるしも成分パーセンテージは同じではありません。

つまり、高品質と思われる(思いたい)たいへん高価な日本産ですが、中には中国産漆よりウルシオールが少なく水分の多いものもあるんです。
日本に輸入されている中国産漆は、日本産漆よりもうんと安価ですが「中国産漆=粗悪な漆」というのは過去の話。今は、生産される中でもトップレベルの漆がより選られて日本用に輸入されているのです。

こうなると「ええ??」とだんだん混乱したり悲しくなってくる方も多いと思いますが…あせあせ(飛び散る汗) 笑。 なぜ、日本産漆といえども品質の大きな高低があるのか、そして、日本産漆でないと得られないものがあるということを、次回書こうと思います。
(続く)



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posted by 宮崎佐和子 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) |   思うこと

2007年07月10日

■シャーベットセット「ケサランパサラン」

7/10シャーベットセット
シャーベットセット「ケサランパサラン」
2007年5月制作
漆/2004年、2005年 岩手県産うるし使用 
木地/カップ・スプーン トチ  敷板/徳島県産天然杉


夏に使う漆器ということで、クールな艶消しの器です。
(うつわ&スプーンの組み合せは、すっかり定番です)
氷菓をイメージして敷板に、雪紋を金箔と銀泥であしらいました。

さて、とても好評だったこのカップの上塗りうるしですが、これは艶消し剤等の調整剤は一切なしの、うるしそのままの自然の表情です。ちなみに、今回のうるしは、松本が2005年に精製した、大森俊三さんの盛り漆(8月20日頃採取)を使っています。


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posted by 宮崎佐和子 at 23:45| Comment(2) | TrackBack(0) | ■ 和うるしの作品

2007年07月09日

■松本の『砥石まつり』。

松本が茨城に出かける前に、頼んでいた天然仕上げ砥石が、研修中に工房に届きました。
『あ…また砥石買ってたんだ たらーっ(汗) いったい砥石はいくつ溜まればいいのでしょうか…!? (>_<)
7/9砥石2
今回は、奥殿巣板蓮華という種類です。
(松本がいかにも好みそうな表情の石です)


7/9砥石3
この蓮華模様に注目!
通称「蓮華」と言われる赤い斑紋が大小取り混ぜてびっしり。
側面も裏面もしっかり入っているんです!


さて、砥石はこれだけではありません…。
松本は今回の茨城行きで、さらにお土産を買って帰ったのでした… 砥石を。

7/9砥石1
人造中砥石です。

東京乗り換えの研修の帰りには、たいてい仲間と東京でしばらくいます。
そして東京には、松本がずーっと行きたかった刃物屋さん(土田刃物店さん)が三軒茶屋にありました。いつもなら、ごはんを食べたりしてみんなと適当に時間をつぶして帰るのですが…。
「なあ、僕、行きたいところがあるんだけど行っていい?」と松本が口火を切ると「おお、じゃあみんなで行こうか〜」ということに。
そこで楽しくお店の主人とお話しして、買った人造中砥石を大喜びで持って帰る松本…。しかも、工房に戻ると、新しい天然砥石が届いているではないですか。ぴかぴか(新しい)
……旅から帰るなり、松本の『砥石まつり』がはじまったのは言うまでもありません…。ハア〜ダッシュ(走り出すさま)

しかも新しい砥石さんの調子の良さに、松本は有頂天〜。
「これは合わせ砥石もいる!」と、すぐ屋島の砥石屋に走って、東京で買ったのと同じ砥石2枚(※松本いわく「番手が違う」)買い足して今回の祭りはやっと終息したのでした…。ハア〜ダッシュ(走り出すさま)ダッシュ(走り出すさま)


7/9ミルおまけ。
松本の『砥石撮影会』に乱入したミルちゃん。
こころなしか、目が冷たいです…(気のせい?)



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posted by 宮崎佐和子 at 21:05| Comment(6) | TrackBack(0) |   道具

2007年07月08日

■竹内さんの浄法寺の漆かきだより3

さて、松本と一緒に茨城へ研修に行っていた今年の研修生の竹内さん。
ぶじ浄法寺へ戻り、うるし掻きの仕事を再開。さっそく写真を送ってくれました。わーい(嬉しい顔)

7/8浄法寺1
浄法寺でもちらちら漆の種が付き始めたそうです。

竹内さんの研修林は、浄法寺と二戸に分かれてあります。(合併により今は同じ市内ですが)

先週末からようやく梅雨らしくなったが気温は低く日中でも20〜25℃。雨の降る日は15〜18℃ほどなので半袖では寒い。今週から四辺目に入った。キズもだんだんに長くなり漆の採れる量も増えてきた。しかし木陰が涼しいようでは、まだ漆は出ないという話だ。(水が多く出るように思う。中目は半分、一回採れば十分くらいの量。メサシは入れていない)〈竹内さん〉

暑さとはまだ無縁の浄法寺。漆の量も例年より多くありません。
そしてまだまだ「身の濃いウルシ」は出ません…!
漆かきの師匠、大森俊三さんいわく「お盆を過ぎた頃から」なのです。(それまでは水分の多い漆が出ます。※水分の多い漆…水と糖分の多い漆)
採れる量は?と竹内さんに聞くと「その日のコンディションで違うけど、1本で1匁くらいかなあ」とのこと。(※1匁…3.75グラム) 
でも今は量を採る事より、ちゃんと技術を習得するのに身を入れたいそうです。

7/8浄法寺2

漆の木を見上げたときに、枯れっ葉がついてこなければ漆は出てこないそうだ。盛りの頃になると枯れっ葉がいっぱいついている。 七月に入り、ちらちらと見えるようになってきた。〈竹内さん〉
夏になると漆の木に現れてくる、黄色い葉っぱたち…。
浄法寺の木にも、よく見るとすこーし見られるようになったのかあ。
この黄色い葉っぱが「漆の木が、ウルシを出す体制になってきた」というサインです。(この黄色い葉っぱ、香川県ではなんと今年は5月末から出ていました。(>_<))

あしたから、いよいよ5辺目に入ります!


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posted by 宮崎佐和子 at 20:57| Comment(4) | TrackBack(0) |   竹内さん研修報告(2007年)
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