2007年07月11日

■日本産漆の品質について/1

「日本産漆を使っている器…それなら、品質のいいものですね」

漆の事をよくご存知でない方でも、自然にそういった印象をもたれることでしょう。
以前「日本産漆は、中国産漆よりも価格が数倍〜10倍高い」ということを述べました。そう聞くとますます「そんなに高価なものなら、さぞかし日本産漆は良いものだろう」というイメージをさらに強くしてしまうことと思います。

日本産漆は、そんなに「品質」が良いのでしょうか。
そもそも天然うるしの「質が良い」とはどういったことなのか…。

そんな疑問も浮かぶことでしょう。

漆にたずさわってらっしゃる方の大半は、中国産の天然漆を主流にお仕事をされていると思います。長年されている方でも「質の良い漆」とは何かと明確に答えられない方がほとんどだと思います。(でも、好みの漆、使いたいと思う漆ははっきりされてるのではないでしょうか。乾きの早い漆、締まりの良い漆、塗り厚がついて縮みにくい漆、透けの良い漆、等)
そして「品質のよい漆」にこだわるよりも「使いやすい漆」「自分の仕事と波長の合う漆」に重きを置いてることと思います。そうでないと、気持ちよく仕事ができないし、何よりも計画通りに作業が進みません。納期に影響するのは、とても重要なこと。展覧会の搬入日や、作ったものの納品日に間に合わないのでは話になりません。

ここまで読むと「あれ?」と思われるでしょうか。
漆樹液の品質は、一般にはあまり重要視されていないのです。
そして「品質」の基準もそんなに明確ではないのです。



そんななか、「質のよい漆」の目安が一つだけあります。
漆の成分分析で、

・主成分のウルシオールが多いこと
・水分が少ないこと        
です。

そもそも「うるし樹液」は、油分(天然樹脂)であるウルシオールと水分、そしてゴム質(糖分等)のエマルジョン。牛乳(乳脂肪分と水分)やマヨネーズ(サラダオイルと酢)をイメージしていただければ分かりやすいでしょう。
このウルシオールは、漆独特の美しい天然樹脂で、これが漆の漆たる成分。(かぶれのもとでもあります)
このウルシオールが、日本産漆には多く含まれているとされてるのです。
一般には日本産漆には60〜70%、中国産漆には50〜60%、ウルシオールが含まれているものと言われてます。(あくまでも目安としてごらんください。文献によって数値がかなり異なります)
そして水分。
水分は、文字どおり「水」です。一般に塗りで使われる「精製漆」は、なやしくろめという作業で内容を均一にし、水分をあるていど飛ばしたものですが「水」が多いと当然、仕上がった精製漆の量は減ってしまいます。つまり「水分」の多いウルシは、その分「水」を買うようなもので、そういった意味では敬遠されます。
ただこの「水分」、漆が木の樹液という天然物だということを考えると、ある程度必ず入るもの。そして、漆の仕事に重要な「乾きの早さ」にも大きく関係するので(水分が多いと乾きは早くなる)いくらかは必要な成分とも言えます。
この成分パーセンテージは、試験や研究の時など、非常に限られた場合しか分析されません。市場で出回る天然うるしの大半は、分析にかけることもなく、精製漆(赤呂漆・黒呂漆等)に加工されて卸されたり、ごく一部生うるし(荒味漆、下地用生うるし)のまま販売されていたります。

さて、漆は木の樹液…ということをさっき述べました。
私たちの体の血液のようなものかもしれません。
血液は、人によって成分バランスが少しずつ違ってて、同じ生活をしている家族であっても、成分パーセンテージが全く同じということはありえないと思います。そして、同じ人でも年齢や季節、体調によって微妙に変化があることでしょう。
…そういえばピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんね。

漆樹液も成分パーセンテージは同じではないのです。
日本産うるしも成分パーセンテージは同じではありません。

つまり、高品質と思われる(思いたい)たいへん高価な日本産ですが、中には中国産漆よりウルシオールが少なく水分の多いものもあるんです。
日本に輸入されている中国産漆は、日本産漆よりもうんと安価ですが「中国産漆=粗悪な漆」というのは過去の話。今は、生産される中でもトップレベルの漆がより選られて日本用に輸入されているのです。

こうなると「ええ??」とだんだん混乱したり悲しくなってくる方も多いと思いますが…あせあせ(飛び散る汗) 笑。 なぜ、日本産漆といえども品質の大きな高低があるのか、そして、日本産漆でないと得られないものがあるということを、次回書こうと思います。
(続く)



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posted by 宮崎佐和子 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) |   思うこと
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