maさんは、東京の漆器専門ショップ「輪島キリモト」にお勤めです。
事の発端は…
今年6月に工房が東京で作品展をした時、会場の同じフロアにショップがあり、会期中に松本と意気投合。
「私も漆かき、見てみたい!」と彼女が言うのに、松本が「おお〜行け行け〜保存会は短期でも研修受けられるから!」と粉かけ。彼女は本当にそれを2ヶ月後に、実行しちゃったというわけです。(このノリ、いいですね)
日本一の漆樹液産地の岩手県浄法寺町。
そこで行われる「うるしかき」には、いろいろなドラマが詰まっています。
竹内さんや臼杵さんたちからも、漆掻き研修生としてのお話を聞いたりその内容を一部この「和うるし日記」でもアップしているのですが…
いかんせん、松本をはじめ職人気質の男性からはイキイキとした現場の雰囲気や素直な感動を汲み上げるのが難しく(笑)「うーんもっとフレッシュにとりあげたいものよ…」と思っていたところ、彼女から「浄法寺、行ってきましたよ」と嬉しい連絡があったのです。
「ねえ、体験記を紹介してもいい?」とお願いしてみたら「私みたいに5日間しか行っていない者の体験でいいんですか?」とmaさんは快諾してくれました。
では、前置きはこのくらいにして…
maさんの研修報告書を引用し、私の解説も加えながら、さっそくこの5日間の漆かき体験記を紹介したいと思います


maさん。
「浄法寺に行ってきました〜!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
2007年8月21日(火)
●佐藤春雄さんの漆掻きを見学(一戸町来田/約90本/13辺)
・漆掻きの流れについて
・道具の使い方について
朝6時ごろ、夜行バスで安代に到着し、そのまま佐藤さんと合流して、さっそく漆掻きに向かいました。すごく山奥でびっくりしました。(ma)
maさんの初めての漆掻きの講師は…
浄法寺でもベテランの漆掻き職人の佐藤春雄さんです。(現在、岩手県浄法寺漆生産組合の組合長さんでもあります)

約1時間車で走り、細い山道を抜けると
漆の木が広がっている林に到着しました。(ma)
漆の木が広がっている林に到着しました。(ma)
maさんたちのまわりの木は、ほとんどウルシです。(ほぼ平地で、うるしかきがしやすそう…)
ここは山の中に見えますが、たいていはもと畑なのです。
「うるしかき」をする漆の木は、自生しているものではありません。地主さんやうるし掻き職人さんが苗を育てて、計画的に植栽しています。そういった「漆山」「漆畑」があちこちにあり(時には青森などの県外まで)、その年の漆掻き計画で、漆を採る場所や本数を決めて、初夏からもう準備をはじめるのです。

まずは、今日の講師・佐藤春雄さんの仕事を見学。
東京から来ていたデザイナーさんも一緒です。
東京から来ていたデザイナーさんも一緒です。
初めて、漆が皮からにじみ出るのを見た時、何とも言えない興奮に包まれました。手際よく一定のリズムで進められていく作業風景に、佐藤さんの身のこなしにただただ見入ってしまいました。
手際よく一定のリズムで進められて行く作業風景。佐藤さんの身のこなしにただただ見入ってしまいました。後半に、佐藤さんがカンナ(注※ 漆の木の幹に傷の溝をつけるためのU字型に刃先を曲げた刃物)を入れて下さったのをひいてキズを実際につけさせていただきました。
力を入れ過ぎても曲がってしまうし、弱すぎても途中で切れてしまうしで想像以上に難しく、奥の深さを痛感ました。(ma)

とても76才とは思えない佐藤さん。
軽い身のこなしに驚かされました。
1日山の中を歩いて、健康でないと
できない仕事だと思いしらされました。(ma)
午後7時頃に作業終了、そのあと、佐藤さんの自宅で採集した漆を樽に移すところも見学させていただきました。
最後は、丁寧に道具を油で洗って、本日は終了となりました。(ma)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
さて、この漆の採集あとの仕事ですが…
maさんの採った写真をもとに、仕事の解説をしようと思います。^^
漆を貯蔵している、杉材のうるし桶、五貫樽。
中央に黒字で「風代 ふうたい」と書いていますが、これは桶自体の重量をさします。(容器の素材が天然物なので、重さが一定ではなく最初に計っておきます)
また、桶にはタテに黒い筋が書かれていますが、この位置で蓋と身をあわせる目印になっています。

この桶も、すぐには一杯になりません。
最盛期と言われる夏で一日400〜600匁くらい。
採った漆は、いっぱいになるまで注ぎ足していきます。
採った漆の計量。

佐藤さんは、バネ計りで今日の収穫を計ります。(これもタカッポ<=カキタル>の風代分の重さを事前に引いています)使う計りも、人それぞれなんだとか。(松本はデジタル計量器を使用)
そして職人さんによっては、ノートに記録を取り、その日のデータ(場所、天候、温度、湿度、採取量など)をきちんと書き付けて残します。
それは後年、同じような天候の年の時に参考にするのです。(ただ、やみくもにやっているわけではありません)
さて、今日の収穫を桶の中に流し込んでいきます。

桶の上には「カケゴ」と呼ばれる桟をかけておきます。
流し込める漆が落ちきったあと、写真の佐藤さんが右手に持っている「ゴーグリ」と呼ぶ刃物で、タカッポの中の漆を取り、「カケゴ」でこそいできれいに桶の中に落とし込むのです。
漆を移し終わったら、道具の掃除。
これを怠ると漆が乾きついて、道具が台なしになります。

フジの枝の先を叩いて刷毛状にした道具を使います。
穂先に油をたっぷりと付けて、タカッポ(=カキタル)をよく洗います。
この際、いちばん丹念に洗うのは、中よりもタカッポのふち。漆を採る時、掻きヘラで当てる大事な所で、漆で固くせず常にソフトな当たり心地になるように、油でしっかり洗い、そして朝の仕事はじめに叩いて繊維をほぐしたりと、手入れに余念がありません。
このあと、タカッポは明日の朝まで逆さに置いておき、自然に油が落ちるようにしておきます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
さて、ぶじに初日を終えたmaさん。おつかれさまでした。
一緒に見学する仲間にも恵まれて、たくさん楽しそうな写真も撮っていました。^^
明日もがんばってください。