2007年12月23日

■水指の蓋の修理と呂色炭。

「今年中」の仕事のうちのひとつだった、水指の蓋がやっとできてほっとしている今日です。晴れ
この蓋は、私の第18回日本伝統漆芸展出品作品「冬の妖精」という白い梅の花を描いた乾漆蒟醤存清の水指のものでした。
今はお客様の持ち物になっていますが、その蓋のつまみが壊れてしまい修理をしてほしいと作者の私に依頼がありました。
新年のお茶会に使っているので、年内にいただけたら…とのこと。
現物を見ると、何度もお客様ご自身が接着剤を使って直そうとしたあとがくっきりと残り、新しいつまみを作るのはもちろん、両面塗り直し磨き直しということになりました。

12/23水指の蓋1
ちょっとお待たせしてしまいましたが…。
やっとお客様にお送りすることができます。^^
(写真がうまく撮れなくてすみませんあせあせ(飛び散る汗)

この磨き仕上げのものは一般的に「呂色」「呂色仕上げ」と呼びます。塗った漆塗膜を炭や砥石で研ぎつけて、漆をさして肌を整えながら専用の研磨剤で鏡のようになるまで磨きます。
この呂色仕上げの美しさ、特に黒は、いわゆる「漆黒」と呼ばれる吸い込まれるような黒にあります。
そうですね、もし宝石に例えるなら…
塗り立ての漆肌の自然な美しさを真珠のようだとしたら、呂色の漆肌はカットされ磨き込まれたオニキスのようなイメージでしょうか。
なおかつ呂色の肌は、うるうるとたっぷり水気をふくんだような感じです。とても魅力的なんですよね。

工房の仕事では、ふだんは塗り立てがほとんどなので、本格的な呂色をとるのは久しぶり。
呂色炭も久しぶりに使いました。

12/23水指の蓋2
塗った漆の表面を、その面の形に合わせた炭で研ぎます。
きれいに均一に塗った塗膜でも、わずかな刷毛目が残っています。それをほぼ研ぎつけてしまいます。

この漆塗膜を研ぐ道具は、炭や砥石が一般的です。その炭や砥石もいろいろ種類があり、たいていは番手が違うもの(目の細かさが違うもの)を併用して使われます。
その研ぎ加減も作法もさまざまです… どんな磨き仕上げを好むか人それぞれで「磨く人の性格が分かる」と私は思っています。笑
どこまで細かく美しく深い色に磨き上げるか、これも追求するときりがない世界です。でも、それは一般の方が見ても全然分からないくらいの差なのですから、ほんのわずかな漆の塗膜の厚みでの仕事なのに、人の追求する意欲に限りはないものです。

さて、私が使っている「呂色炭」ですが…。
漆芸の世界でもあまり一般的なものではないかもしれませんので、少しだけ紹介します。
12/23するが炭と呂色炭
左/駿河炭 右/呂色炭

どちらも研磨用に成形したもの。これは1.5センチくらいの大きさです。原木が違ってきめの細かさや質感が異なります。※研ぎ炭(日本工芸会より)
一般的なのは、駿河炭でしょうか。私は試したことがありませんが金属の研磨にも使われるそうです。
確かに、しゃっきりした使い心地です。
大きめの節もスカッと取れて、とても気持ちがいいものです。

さて、なぜ呂色炭の方は形が丸いかというと…それにはちょっとした理由があります。
あまり大きな炭が取れないんですよね。
12/23呂色炭1
成形前の炭。
いっぱい亀裂が入ってころころしてます。

こんなふうに細かい割れがたくさん入ってて、磨きに使いやすいような大きめの炭はなかなか取れません。
駿河炭を削った方ならお分かりだと思います、部位にもよるのでしょうが比較的大きな研ぎ炭をさっと作ることが出来ます。呂色炭はそうはいかないんですよね…「やった、これは大きい!」と思った固まりがあっても、成形中にほとんど崩れてしまいます。表面に出ていない割れがやっぱり入ってるんですね。

12/23呂色炭2
こんな大きさの炭からも、これくらいの
研ぎ炭しかとれなかったりします。

呂色炭のいい所は、塗り肌の刷毛目も取れてなおかつ研ぎ肌が細やかな所です。うまく使うと、いい状態の呂色が比較的早くとれます。
さて、この呂色炭ですが、数年前にお世話になった漆芸家の先生の所で焼いて作ったものです。いい原木さえあれば、素人でも簡単にできます。また機会があれば、ご紹介したいと思います。^^

それにしても今回の水指ですが、本体は見ることはありませんでしたが蓋を再び手にすることができて本当にいい勉強になりました。
とても手をかけた我が子のような作品でした。
新春の晴れがましいお茶会に使って下さっていることが分かって、とてもうれしい仕事でした。


posted by 宮崎佐和子 at 22:50| Comment(4) | TrackBack(0) |   道具
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