そして町長さんは、意欲的で文化的事業に大変熱心な方です。なので、今回の企画も町長さんの肝いりなのだと思います。

アレックス・カー氏といえば、まず思い出されるのはちいおりでしょう。著書「美しき日本の残像」で詳しいように、祖谷村にある若き日のカー氏の小さな隠れ家は、今や日本人自身の憧憬をそのまま形にした場になっています。
この祖谷は、四国唯一の漆樹液産地である山城町(徳島県三好郡)のすぐ近くでした。
平地がほどんとなく決して豊かではありませんが、山深く美しい所で松本がここで漆かきをしていた時は、毎週のようにこのあたりに通ったものです。
さて、今回の講演で、てっきり日本を見切って冒されていない美を求めて他アジアに行ってしまったとばかり思っていたアレックス・カー氏が、近年、京都で町家おこしのプロジェクト ※庵(いおり) をしていることを知りました。(すみません、知らなくって…)
実は宇多津町も、町家おこしに大変力を入れているのです。(小さいながら情緒あふれる町家が残っており、たいへんいいところです)

さて、話は変わりますが、今回の講演のパンフレットに「美しい○○」とキャッチコピーが入っていて、正直複雑な思いがしました。
なぜならアレックス・カー氏は今の日本も今回講演に訪れるこの町も、もう美の残像は残っていないと感じているだろうと思ったからです。
でも、あまりそのことにはここでは述べないでおきます、誰だって自分の故郷が一番美しいと思いたい気持ちは同じだから…。
漆に限らず、日本の財産は同じような要因でどんどん萎縮していっているのでしょう。多くの問題が山積している日本で、こうしたことは二の次三の次になってしまうのかもしれません。でも、この文化を持ってこそ日本と言えるのであって、日本人自身がなんとかしないといけない課題です。
肝に銘じておきたいと思います。