この『漆濾し』のやり方は、濾す漆の用途によっても違います。木地固めに使う漆、中塗り用の漆、そして上塗り用の漆では、方法やその気遣いの仕方がかなり異なってきます。
…特に上塗り用の漆を濾す時は、細心の注意を払って、慎重に仕事をします。
さて、うちの工房の『漆濾し』の写真を撮っていたものがあるので、ちょっとご紹介したいと思います。
※今回の写真はすべてクリックで拡大します。

この漆は、今から濾しますが、木地固めに使います。
「枝漆」というのは、漆掻きの本当の最後の最後に採る、残り汁みたいなものなんです。
でも、名人の手によって、ていねいな仕事で採られたこの「枝漆」はどこに出しても恥ずかしくない、かなり良い漆だと思います。

渋濾し紙2枚で2回、濾します。
2枚の濾し紙を茶碗に重ねて置き、その中に漆を落し入れます。
そして、まずは上の1枚の濾し紙だけで漆を包みこみます。(松本は、漆濾しの時は『鉗子』を使っています)

力をかけて絞らなくても、漆の重みですーっと落ちていきます。

2枚目濾し紙の上には、1枚目で濾した漆が溜まっています。
これを2枚目の濾し紙で再度包んで、同様に濾します。

正直言って、枝漆には見えません…裏目漆みたいです。
濾し紙の微細な目を通して、中の漆がいろんな表情を見せながらわき出して落ちていきます。すーっと吸い寄せられるように漆が落ちて行くさまは、なんだか不思議な気分です。
それにしても、学生時代に中国産漆を濾す時は、本当に大仕事でした。べたべたの漆を灯油で薄めて、そこそこの硬さに調節してから濾すのですが…。
ほんとうに、水あめかタールのように重い漆で、濾し紙に入れてもなかなか落ちず、ものすごく時間がかかったりしました。(あと、そうじも大変でした)
それを思うと、同じ漆を使っているはずなのに、この軽やかさはなんだろう?と今でも思い出して不思議になることがあります。


(この山で採った枝漆は、あっ

つい去年のことですが、この枝漆はもういつ使えるかどうか分かりません…。

また、こんなマイルドな漆で楽しい木地固め、したいです。
