今日は、珍しいものを紹介したいと思います。
本当にちょっと変ったものです… 何かと言うと、
産地・採取者の違う漆のお椀です

作品展会場に、サンプルとして必ず置いているものなので、来場された方は手にされているかもしれません。^^
(クリックで写真が拡大します)

同じ材(トチ材)同じ形のお椀に、
同じ回数同じ仕事をした椀2個です。
違うのは、漆だけ。(もちろん、どちらも日本産の生漆100%です)どちらも塗りっぱなしで、漆そのままの塗膜の表情です。
これをごらんになった方(特に漆をされている方)は、非常に驚かれるんですよ。
一般のお客様は「片方が黒っぽくてすごい艶消し、片方はぴかぴかで色が全く違う」ということに驚かれます。
漆をされている方の多くは「片方の、この透明度の高い漆はいったい何だ」とびっくりされます。
ひとことで『日本産うるし』と言っても、こんなに表情に違いがあるものなんです。おもしろいと思いませんか?

(クリックで写真拡大します)

2000年 大森俊三採取
岩手県産 盛漆(生うるし)
これは、もと松本が自分用にごはんを食べていたお椀でした。
1年くらい、週2、3回使っていたでしょうか。あまりにもよく浄法寺漆の(というよりも大森俊三さんの)特長が出ている漆だったので、私の一存で?展示見本として昇格させました。
(松本は『ぼくのお椀が…』と悲しそうでしたが

)
漆の色はよく「飴色」と表現されます。
でも、この漆はどことなく赤紫っぽい色をしているような気がします。単なる「飴色」という色表現ではあらわしにくいような感じです。
そして、こうした色味は東北の漆の特長のように思います。

さて、2007年の裏目漆かきですが、この漆を採った大森俊三さんの仕事の動画です。
※現在はリンク切れとなっています。なお、この浄法寺漆のお椀は、かなりの艶消しの塗り肌になっていますよね。中にこのお椀を見て「浄法寺の漆なら、必ず艶消しに塗りあがる」と早合点する方がいらっしゃいますが…。必ずしもそうとはかぎらないんです。
(ぴかぴかの艶の塗り上がりになる浄法寺漆も、中にはあります)
****************************************

さて、次は注目の徳島のうるしのお椀です。

2001年 松本和明採取
徳島産 盛漆(生うるし)
正真正銘の
レアものの漆です。この透明感(すり漆ではないんです、溜めです)、太陽のような黄金色。私は、この漆を見るたび、オレンジのような果実を思い出してしまいます。
こういった漆が、流通に出回ることはまずありえません。
なぜなら…
これは、松本自身が「自分好みに仕立てて採った」うるしだからです。
日本うるし掻き技術保存会の漆掻き研修から香川県に戻った翌年に、隣県の徳島県(三好郡山城町
※阿波池田や祖谷の近く)に通って、漆掻きをしました。
メタテの時期、キズを付ける位置・形、漆掻きのタイミングなど、「最高」を求め、仕立てて採ったのです。
四国の「阿波うるし」の特長が最大限に生きていると思います。

徳島での漆かきの様子。
これもよく早合点されるのですが「阿波うるし」だからこんな透ける金色の漆になる、というわけではないんですね。(同じ『阿波うるし』でも
東官平さんの採った漆とはまったく表情が異なります)
…と、いくら説明しても納得してくれずに漆関係の方に「この漆を売ってくれ」と言われることもあったりします。(とある無形文化財の方にもそう言われ、説明しても納得してくれず。その方のいる地域は阿波うるしの苗をいろいろ手配して入手されたようです。その土地で阿波の苗を育てても、これとおなじ漆が採れるとは限らないのですが)
いろいろ物議を醸す?二つのお椀を並べて。

…改めて見ても、同じ回数だけ同じ『日本産うるし」を塗ったお椀には見えません。

『中国産うるし』と『日本産うるし』という対立だけで見られてしまう日本産うるし。
でも単に『日本産漆』とだけ表現されるうるしも、こんなに表情が違う、と言うことを分かりやすくお見せするために用意したサンプル椀なのですが、ちょっとした火種のもと?になることもあるのも、事実です。
****************************************
この日本産うるしの多様性も、いろいろ考えられる要素がいっぱいあって、このブログの一つの記事で説明しきれない、というのが正直なところです。(そして、今は漆関係者が目を見張ってごらんになる阿波うるしのお椀も、悲しい過去があります)
いつか、少しずつご説明していきたいと思います。