ふだん使いの漆に慣れてらっしゃる方なら、ご存知でしょう。
使っていると、人間だもの器をうっかり落としてしまったり、転がしてしまったりすることだってあります。
そんな「陶器だったら絶対に壊れる」というシーンが勃発、「ああ!しまったぁ

しかし、拾い上げて良く見ると、意外とダメージが少なくてホッ…そんなことがよくあるのです。
木は、陶器ほど堅い素材ではありませんが、柔軟性があるのですね。
衝撃を受け止めて分散させるしなやかさがあるのです。
大きな困難を受けても優しく受けてそらす… そんな漆のお椀のような人になりたいと思ったりすることもあります。(笑)
でも「壊れない」というわけではありませんよ。(お間違えなく)
悲しいかなこのサンキライの入れ子椀のように、完成を待たずにうっかり落として打ち所が悪く壊れることもあります。
そして先日も、漆のフリーカップをお接待用に20個まとめて買ってくださったところから写真付きでメールをいただいたのでした。
そのうちの1個を、さっそく傷つけてしまったんだそうです。



お客さまがその時に送って下さった写真。
ふちのところに強い衝撃を受けたのですね。
ふちのところに強い衝撃を受けたのですね。
大きな行事の翌日、洗い終わったフリーカップを台所で拭いていたところ、少し気焦りしていたのか、落としてしまったそうです。
「派手な落ち方をして、ごろごろと転がりました‥

そして、明るいところで見たら、悲しい事にヒビが入り…口のところの木も少し欠けちゃっていました。


内側から見たところ。
反対側までヒビが入っています。
反対側までヒビが入っています。
「まずは見せてください」とお願いして、その可哀想な?カップを送っていただきました。
拝見したところ、十分漆で直るものだったので、そのことをお伝えして、工房で修理をすることになりました。
修理内容はいたってシンプルです。
特に破片も出ていないようでしたし、まずは傷口に漆を十分入れてしっかり乾かしました。
そして、ヒビの透き間にも、漆を入れてきちんとふさぎます。
その傷口が十分癒えてから、全体を軽く研磨して洗浄し、大森俊三さんの盛り漆で上塗りをしました。



もう、怪我したところは分からなくなったでしょ?
上塗りもかなりいい雰囲気に仕上がって、私もちょっと嬉しくなりました。
きっと、また活躍してくれることでしょう。
さて、こんなふうに漆のものは、修理でたいがいのものは復活させることができます。(処方は、うちの工房の場合は今回こんな感じでしたが、状態によって異なります)
ただ、よい修繕結果にするには、下地が漆でしっかりしていることが大事なので、工房では申し訳ないですが、自前の器しか修理を受けていないのですが‥。
もし、傷んだ漆器をお持ちの方は、お求めになったお店や産地に問い合わせしてみてくださいね。^^