この本を読んで、たいへん驚きました。
本書は、化学の分野で活躍し、多数の著書や論文を持つ著者が「漆」について長年の取材や見聞に基づき、多岐にわたって記した快作です。
何が一番衝撃だった内容かというと…。
漆業界では当たり前でになっているにもかかわらず、消費者には大変不親切で不明瞭な「漆器」の原材料、産地などについての表記について、ズバリと切り込んでいるところでしょうか。
「非漆化」が進行してひさしい漆器業界…。
戦後、多いに変った日本人の生活スタイルと化学産業の発展によって漆器業界も大きく様変わりし「伝統的な漆器」と合成樹脂などを使った「新興漆器」という、異質な漆器が、生産と市場の両方に混在するということになったのです。
この結果、伝統的な漆工芸品よりも安価な新興漆器が、大半を占めることとなり、本来の力を著しく弱体化されたその功罪を著者は鋭く追求しています。
冷徹で公平な著者の視点はそれにとどまらず、漆文化の将来や生き残りについての意見も述べており、本書は「漆百科」のタイトルにふさわしく数百文程度の270個ものコラムの集約、という構成になっているにもかかわらず、きちんと起承転結をつけてうまくまとめられて読みやすいです。
(日本産うるしについても、しっかり書かれています)
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さて、話は変わりますが、実は先日、本書の著者である山本氏にお会いする機会に恵まれました。
出版にあたってのご苦労など、いろいろお話を聞かせていただくことができて、とても感銘を受けました。
歯に衣を着せぬ書きっぷりだったので、眼光鋭い?学者肌のような方を勝手に想像して、実際にお会いするまで緊張していたのですが…

ご本人はたいへん穏やかで理性的、なおかつ情熱的な方でした。
漆の文化は、多くの人に支えられている、若い世代の私たちは負けずに頑張らなければいけないと実感したのです。
ぜひ、多くの方に読んでいただきたいと思います。
※丸善株式会社/2008年5月発行