今年の4月から新規オープンした香川県漆芸研究所について、修了生としての立場から、後輩たちへのアドバイスを書きます。
あくまでも一私見としてですが、何か参考になれば幸いです。^^
●修了後の就職先、進路はどうしているのか。
こんなに恵まれた授業環境で、「漆」という特殊技術を身につけたら、きっと前途揚々じゃないのかしら?と夢見る人も多いと思いますが、実際はどうなのでしょう。
手っ取り早い例で恐縮ですが;;、松本と私のようなスタイルで仕事をしているのは、あらゆる意味でまれなケースじゃないかと思います。この「あらゆる意味」というのは、漆で自活しているということ、高級品とはいえ生活の器つくりをメインにしていること、日本産漆しか使わないということ、どれも含みます。
が、今回はこの情報を必要としているような人に特に関係ある話題に絞っていきますね。
香川県漆芸研究所の公式ホームページのQ&Aには「○修了者の職業は? 漆芸研究所ができて今年までの半世紀の間に約370人の修了生が出ていますが、漆芸作家の道に進んだ人が110人近く、漆器業界に入った人が150人近くになります。」と、参考になる文章をちゃんと入れて下さっています。
ただ、近年の状況、とはいっても私の在所中からここ最近までの知っている修了生の進路だけに限ってですが、若干印象が違うように思います。
まだ漆器産業が華やかだった当時は、漆器業界への就職もたいへん多かったはずですが、今はほどんどないと言ってもよいほど非常に少なくなってきているのではないでしょうか。
入所する研究生の中には、木工作家さんだったり伝統工芸師さんだったりはたまた由緒ある蒔絵師さんのおうちの息子さん娘さんもという方もけっこういらっしゃいます。そんな人たちは、研究所で習う香川三技法・蒟醤、存清、彫漆を修了後も続けるとは限らないのですが、しっかり研究所で勉強してそれを肥やしにして家の仕事を頼もしくやっていますよ。
そしてそんな看板は持っていなくても、個人で作家業をされている方は、わりといらっしゃいます。その大半は、年1回の日本伝統工芸展の出品作品を制作する作家さんです。出品作については厳しい審査があって、落選するともちろん工芸展には作品は展示されません。入選すると、その年度の日本伝統工芸展に作品が加わり、たいへん名誉なこととなります。そして、入選作品は各地の催事場や美術館をまわります。会場が美術館の場合はちょっと分からないのですが、会場が百貨店さんの場合は現場には表示されませんが、作品には価格が付けられます。作品をごらんになったお客様が買ってくださることもあります。
この日本伝統工芸展には、陶芸(第1部会)、染色(第2部会)、漆芸(第3部会)、金工(第4部会)、木竹工(第5部会)、人形(第6部会)、その他の工芸(第7部会)と七つのジャンルに分かれています。その各ジャンルの「ミニ伝統工芸展」ともいうべき 日本伝統漆芸展や、各地方の伝統工芸会で開催する日本伝統工芸近畿展(例)などがあって、そちらも合わせて出品作を作って出す方も多いです。もちろん、入選作は会場で売れることもあって、たいへんな励みになります。
日本伝統工芸以外の会派、例えば日展(日本美術展覧会)系の作家さんへの道を歩む方は、以前はいましたが今はほとんどいないと思います。
これは、漆芸研究所の講師に携わる先生方が全員、現在は日本伝統工芸の会員であるため、修了生もその影響を色濃く受けているのでしょう。(松本が研究生のことは、まだ日展系の非常勤講師の先生もいらしたそうです。その方が最後でした)
そのほか、弟子入りする人もけっこういたりします。
やはり今でも、お弟子さんにいくのは日本伝統工芸会の先生のところが多いのかな? どの系統にいくのであれ、どんな先生を師匠としてつくかで、その予後がずいぶん違ってきます。
もちろん、どの会派とかにも属さず、個性を生かして自分なりの作家活動をしている方もいらっしゃいますが、そういった人は今でもかなりの少数派ではないでしょうか。
作家業以外に、工芸関連の施設にまんまと?就職できる人もいますし、修復などにたずさわる人もごく少数ですがいたりしますよ。
残念ながら、研修所から就職先の斡旋とかはまず考えない方がいいでしょう。うまく就職できた方の大半は、自分で就職活動して探してきたところがほとんどだと思います。
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…さてさて。
正直言って、修了生で漆でちゃんと生計を立てている、つまり「漆で飯を食っている」という方はたいへん少ないです。
というよりそれ以前に「漆」を続けている方自体が少ないかも…。きっぱりと足を洗って?もっと安定した職業についたり、家庭に入ったりしている方のほうが多いように思います。
でもこれは、例えばデザイン学校に行った方たちが全員その道についたりすることはないように、当然といえば当然のことですね。

時間が経ってから自分の適性がわかったりすることもあるし、事情があって続けられないことがあるのもよくある話です。
また、日本伝統工芸展へ出品する作家さんになったとしても、生活はたいへんです。
何ヶ月も手塩にかけて作った出品作が入選するかは、当然ながら分かりません。また、入選して会場に並んだとしても必ず売れるとも限りません。いずれにしても収入面では大変厳しく長年続けるには、漆教室をしたり全く別の仕事やアルバイトをして収入を得たり家族に扶養してもらったりと、よほど裕福でないかぎり金銭面での苦労はかなりあると思います。
もちろん、どの会派にも属さない自由な作家さんになっても経済面は辛いです。仕事の運営センスがよりシビアに必要になるので、方向性をしっかり決めていないともっときついかもしれません。
いずれにせよ、それでもバイタリティーのある人は頑張って自分のカラーを出してたくましくやっていますよ。^^
さて、次の3回目で最後にしますが、一番カナメとなるお話をします。