2009年05月03日

■香川県漆芸研究所について。3

…さて、最後になりました。あせあせ(飛び散る汗)
前回前々回の続きとして「香川県漆芸研究所で勉強してみたい」と思っている将来の後輩たちに、引き続き私見で恐縮ですが、私なりのアドバイスをさせていただきます。
今回のはたいへん重要だと思うことですので… 
ちょっと重い内容ですが(松本に『しょっぱい話やなあ〜』と言われてしまいました ;;)心して?参考にしてくだされば幸いです。ムード
↓以下、愛想ない文章になりますが、どんどんいきます。

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漆芸研究所に在所して勉強する3年間は、かなり特殊な環境での日々です。個性的だった人、将来のイメージがあった人もすっかり同じ「色」に一度染まってしまいます。
修了後もその気分をかなり引きずって、すっかり自分らしさを取り戻すのは数年かかりますし、一生そのまま…みたいな場合もあります。ちょっと語弊があるかもしれないけど一種の後遺症のようなもの、といったらわかりよいでしょうか。前回も書きましたが、これも一つの「縛り」でなかなか自由になれない人もいます。これがやっかいで、自分では気づかなかったりするのですね…。何年もたって、「あれがそうだったのかexclamation」と納得するほどだったりします。
また、漆芸研究所は非現実的な空間です。
心していないとこの空気に慣れてしまい、これも今後の「縛り」になり得ます。「ちゃんと稼がないと食べていけない」という当たり前のことは全く考えないことを前提としたうえで、理想の技術、非現実な世界の追求をする3年間です。この空気感に3年も浸っていると現実的な平衡感覚が失われてしまい、修了して社会に放り出されうまく生きていけないことにたいへん苦しんだり、自分が見えなくなって、長年さまよって青春時代の大事な数年間を損なったりする人をいろいろ見たりしました。これはかなり深刻だと思っています。女性なら迷いの時期が長くても人生の軌道修正はいくらでもできるのですが、男性の場合はやっかいです。その間、同世代の人が社会的地位を得てちゃんと家庭を持って人生の基礎を築いているのに自分はどんどん世間とずれてくるのです。
またその延長で「学生ジプシー」とでも表現したいような人たちも多く出てきます。社会に放り出される前に「学生」の立場をキープしたいのかな?「まだまだ技術を習得しないと不安だ」と大学→各地の研修所、研究所などを学生としてずっと渡り歩いてしまうのです。そうなると義務教育時代からずっと学生のままで40才近くになることも簡単で、これも社会と解離した人を生み出します。おそらく各地の公共の研修所の「授業料が無料」という設定が、そういったことをさらに容易にしている一因かもしれません。国が豊かで、親も健康でずっと学生の子供を養う財力があればこそですが、世も不安定になってくるし親御さんも年をとってくるでしょう。いざ「ふつうの仕事に就職したい」と思うようになっても、うまくいくといいのですが…。
当然ですが修了生のその後の人生まで漆芸研究所は面倒みてくれないのです。技術を学ぶところなんですから…。
めでたく研究生になると日々、課題に忙殺されますが、入所している少しでも早い時期に進路を決めて情報収集することを勧めます。安心して学生気分を満喫していると、すぐ修了→なんの準備もなく社会へ、というパターンになります。

また、ほかの留意点もあります。
講師の先生方と濃厚な時間を過ごすことになるので、その影響を強く受けます。卵から孵ったヒナが最初に見たものを親を思うようなものでしょうか。その講師の先生方が全員、現役の日本伝統工芸会の作家さんで授業の内容も日本伝統工芸会の内容のもの、となれば、ごく自然な感情として、修了後も「日本伝統工芸の作品を作らないと、教えて下さった先生方に悪い」と思ってしまいがちなのです。が、気にしなくていいのです。自分らしさを生かして生きて下さい。あとは個々の人生ですから…。
ちなみに、研修所の講師の先生方がとても人間的な魅力にあふれているのでつい憧れてしまうものなのですが、みんなが講師の先生方のような崇高な生活ができると思ってはいけないのです。せっせとものを作って売ったり足を棒のようにして営業に通ったりお客さまに一生懸命頭を下げているのではなく、先生として慕われ講師の収入を得たり公共事業の文化的な仕事を受けたりして生活ができるような、たいへん限られた環境の方たちです。先生方には、何十年も地道に積み重ねた下地があり、ふるいにかけられその結果今の地位につくことのできた選ばれた方なのです。そんなご苦労は生徒にみじんも見せませんが、その長年かけて形成した立派な表面だけを見て勘違いすると現実とのギャップに必ず行き詰まります。

また、意外と知られていませんが、漆芸研修所は漆器業界との関わりもほとんどないです。香川の漆器業界と作っているものとは全く違うし、(香川漆器として有名な後藤塗、象谷塗は学びません)いわゆる○○塗りといった産地のことはまったく学んだりはしません。通産省系統の内容はまず出てこないです。

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…ながながとなりましたが…どうぞ、ご参考に。
「行きたい!」と思っている方は、もう心が半分決まっていますから、上の内容を読んでもピンとこないかもしれませんね…。(でも修了したあとに読むとヒシヒシと分かります)
これから研修所に入る後輩たちは、自分をしっかり持ってほしいと切に願います。
いろいろ書いてしまって、中には辛口の部分もありますが、研究所を愛するがゆえにと思ってくださいね。あせあせ(飛び散る汗)
今でも、尊敬し感謝の念が絶えませんし、すばらしい学びの場所と思っています。あとは、入る生徒さんの心がけしだいだと思うのです。「自分探し」の場にすると、いっそう自分を見失います。
どのみち「漆」の道を選ぶだけで、イバラの道です。^^; (イメージとしては「絵描きになる!」と言うのと同じくらい?果てしないものです)もし自活を希望するなら、技術だけでなく経営感覚も資金も必要です。
後輩たちに幸多いことを願っています。

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※ちょっと思い出したことがあって追記です。
posted by 宮崎佐和子 at 19:19| Comment(4) | TrackBack(0) | ■ 香川県漆芸研究所について
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