すごく思い入れのあるものだったり、買ったばかりのものだったりしたら、どうにか直らないものかな?と考えるのが人情だったりします。

ありがたいことに、漆のものは、比較的補修がきくことが多いのはご存知でしょうか。
漆は接着剤の機能もあり、また可塑性もあり、そして塗料としてたいへん優秀である素材なので、割れた部分を接着し、足らない部分を埋め、そして全体をコーディングして、外見的には元通りに近い状態にすることが可能です。(ただし、すごーく手間がかかりますが;;)
工房には、そうしたお品がときどき緊急入院をすることがあります。
そんな重症患者さんが何人かまとまりましたので、ついに松本がオペを行いました



ケヤキの湯飲みです。うっかり壊してしまったそうです。ふちが大欠けしてしまい、しかも欠けたパーツが3つにくだけているので、重症です。
そのままでは接着ができませんので、石膏でこの湯飲み専用のギプスを作り、破片の断面に漆を塗布し、それぞれのパーツがズレたり歪んだりしないよう、細心の注意を払いながら、ガッチリと固定しています。


ケヤキのぐいのみです。持ち主さんの高齢のお母様がうっかり取り落としてしまい;; こちらもふちが欠けてしまいました。幸い欠けたパーツがほぼ完全な形で見つかり、しかも1欠けだったので、上記の湯飲みよりはまだやりやすいです。
こちらも専用のギプスを作り、漆で貼り合わせて固定します。
漆が十分乾燥し、ある程度強度が出るまでかなり日数がかかります。最低1ヶ月は置いておいた方がよいかと思います。
これらのパッコリ系の破損のうつわたちですが… 外見的には違和感ないくらいに復旧すると思います。ただし、強度は戻らないので、気を付けて使う必要があります。
漆と木の器は、陶器にくらべるといくらか弾力性がありますが、やっぱり落とすと壊れるのでご注意下さい〜〜。



梅のお花の箸置ちゃんです。
先月、関東地方で強い地震がありましたが、運悪くそのときに落ちてしまい、どちらもパカッとまっ二つになってしまいました。

縁起担ぎのお品ということもあり、修理させていただくこととなりました。とてもきれいに割れていて、粉砕していたりパーツが欠けていたりということはなかったのが幸いでした。
断面に麦漆(小麦粉と漆を練ったもの)を塗布し、つよく圧着しています。
ところで、この麦漆というのはすぐれもので、断面が広いものの接着には有効です。小麦粉の粘りが糊の役目も果たすようで、かなりしっかりとくっ付いてくれます。
以上は、最近の重症患者さんの一部です。みんな… 早く元気になりますように〜。

ほか、軽症、中程度のお直しはこのようなものがありました。(適当に貼ってみました)
↓ ↓
お椀 お椀とスプーン めんぱのお弁当箱 フリーカップ お箸とスプーン
上記以外にも、とりかかっているお直し品がありますよー。
工房で制作したもの以外の修理はしていないのですが(ゴメンナサイ;;) 半年〜1年くらいを目安にお時間いただいています。
繁忙期に受け取ると、すぐ修理に取りかかれるないことも多く、よけいに時間がかかっています〜。

また、今回ご紹介したような重症の場合は、装置が必要なのでいくつか案件がまとまってから取りかかることが多いです。
とても手間のかかる修理…。新品を作る方がラクだという話もよく聞きますが…。
それでも、辛抱強く待ってくださったうえ、また愛用していただけるのは、たいへん嬉しいことですね。


お局男のむぎ君です。
いつもするどく飼い主を観察しているので(いつゴハンくれそうかとか)
あながち、我が輩は猫であるみたいな世界も、意外とリアリティーがあるなあ〜と思ったります。