とても印象深い出来ごとをちょっとお話しようかと思います。
この1件も、私たちにとってかなり衝撃的?な体験で… 日本産漆の受け入れの難しさをまざまざと感じさせた出来ごとでした。
まだ工房を立ち上げて間もない頃…。
都心で「新しい漆の世界」という意味あいのタイトルの催事が行われていました。
とある方(私たちの活動にちょっと関心のある県庁の方)が「きっと参考になるから」とすすめて下さって、作品展の前で準備でばたばたしていた時でしたが「でも勉強になるよね!」と松本と見に行きました。
催事のテーマは「従来の漆の表現にとらわれず、新しい漆の価値観をあらわす」といったもの。
その「新しい漆の世界」の会場には「漆」というイメージを払拭するような、鮮やかな工業製品、スタイリッシュな家具、面白い小物やアクセサリーが並んでいて、私も「わあ〜

会場を出たあと、松本と「面白かったねえ」と話しながら帰ったのですが、そのあと二人とも顔を見合わせて「でも、あそこには漆がなかったね」とくすくす笑いました。
そうです。
その会場のものは、どうみても化学塗料のものばかり。
合成樹脂にいくらか漆は入っているのかもしれませんが、どうみても漆ではなく私たちには石油製品の展示会にしか見えなかったのです。(ごめんなさい〜)
そしてその何日か後のこと。
和うるし工房あいの工房展を開催中のことでした。
いろんな方やお客様が見に来て下さったのですが、その中に漆のうつわを専門に扱ってらっしゃるギャラリーさんの姿もありました。
当然、日本産漆だけで作られる器を楽しみに、たいへん遠くからわざわざ来てくださって、丁寧に作品をごらんになっていたのですが…。
後日、感想をお聞きした時に「悪いけど、あの作品展会場には漆がなかったわ」と漆のギャラリーさんがおっしゃったのでした。
この時は意味がよく分からず、最初は二人とも「??」となりましたが…。
だんだんと『中国産漆で作られたという器を、昔から慣れ親しんでいる者にとっては、あなたたちの日本産漆100%の塗りは、とうてい漆とは思えない』という意味だと分かり、「ええ?

なんとも皮肉というか…。
「じゃあ、生粋の国産漆は、いったいどうすればいいんだろう…

…と、当時は私たちも今より若かったこともあり、けっこう真剣に考え込んでしまった1件でした。