今日、ご連絡がありまして取材の方が会場に来られることになりました。
そこで、久々にビン詰めのなま樹液も持って行くことになりました。
なぜ最近持って行かなかったかといいますと、やっぱりちょっと怖いからです。
以前、分析のサンプルに欲しいと知人の方からご依頼を受けて、フィルムキャップに入れた阿波漆(少量の漆の持ち運びによく使われます)を郵便で送ったことがあるのですが…
なんと先方に届いた時には、中身の漆がもれていたらしく

もし漏れたら、なかなかやっかいな代物です。
十分に気をつけて持ち運びしないといけません。


松本の採った浄法寺の漆です。
2000年の末辺(秋の漆)。
これは、採ってすぐにビンに封入した漆で、採った時からほとんど変化していません。なぜビンに封詰めしたかというと、当時は漆の保存法をいろいろ研究していた時代で、こんな実験もしていたんです。(今は、もうこの保存方法はしていません)
それを、見本にと当時は展示会場に持って行く事もあったんですね。
…さて、この漆はなかなかいい漆なんですが、かなりマニアックな漆なんです。
もしかしたら公共の電波に乗るかも?しれないし、「せっかくだからもっと分かりやすいいい漆を持って行こう」ということになり、急きょ同じ規格のビンをホームセンターで買ってきました。
そしてその新しいビンに、大森俊三さんの漆を詰めました。


左が松本の2000年末辺漆、右が大森さんの2006年末辺漆です。
どちらも浄法寺産の荒味です。(クリックで写真が拡大します)
どちらも浄法寺産の荒味です。(クリックで写真が拡大します)
大森さんのうるし、とってもきれいです。

大森さんの採ったうるしにしては、そうコンディションの良いものではないんですが、漆がぜんぜん分からない方でも、この二つのビンのうちどちらかを選ぶとしたら右側を選びそうですね。笑
なぜ、こんなに違うのか、といえば…。
採取者の違いもありますが(松本は大森俊三さんの技術理論に傾倒しているので基本的には似た漆を採ります)、一番の要因はうるしが未発酵か、十分発酵しているかだと考えています。
このなまの樹液のつきものの「発酵」が漆の品質を左右する鍵だという考えです。

まだ、詰めて数分しか経っていないのですが、もう木屑が底にたまっています。
この木屑を濾していない、なまの樹液を『荒味漆』と呼びます。
山から持ち出して大きなごみだけをざっと取った、なまそのままの原酒のようなうるしなんですね。
大森俊三さんは仕事もきれいで、この木屑があまり入っていません。とてもスマートなお仕事をされています。
(うるし掻きさんにもいろんな方がいて、中には『ごみが多い方がよい』と教えられて、木屑をたくさん入れている人もいます)
この木屑が少ない、というのは漆の品質を左右するポイントの一つになります。
漆の木にキズを付ければ、誰でも日本産うるしを一応採れることになりますが、こんなに品質のいい漆を採れるのはほんの一握りです。


わ…こんなに沈殿が早いのですね、大森さんの漆。
いつも使う分は茶碗に入れているので、側面からしみじみ変化を見るのは初めてかも。
これは本当、使うたびにしょっちゅうかき混ぜていないといけないなあ。

でも、上の松本の漆はほとんど沈殿していませんでしたが、でもこれはうるしが粘いからでないんですね…。(実はシャバシャバです)先ほども書いた通り、これはマニアックなうるしなんです。
なぜ、そうなのかの見解は、またの機会にご紹介したいと思います。
さてさて、漆は油(ウルシオール)と水分、ゴム質・糖などの有機物の混合液体です。イメージとしては牛乳のような感じでしょうか。(乳脂肪と水分、タンパク質等)
一般に売られている牛乳は、成分が沈殿しないよう均質化(ホモジナイス)していて、最後の一滴まで白い不透明な液体ですが、原乳は置いておくと乳脂肪が上に浮き上がってくることはご存知だと思います。
加工していない漆樹液も同じ現象が起こります。
品質のいい、さらさらのオイルのような漆はこの沈殿がとっても早いです。(こんなに早いとは思いませんでしたが…

この大森俊三さんの末辺漆、もっと時間が経つときれいに沈殿します。
なかなか興味深い絵になりますので、また後日紹介しますね。

…改めて読み返すと、そうとうマニアックな?内容になっちゃいましたね。
うるし樹液の一面を少しでも知ってくださるとうれしいです。^^
さて、では大阪に旅立っていきます。
大阪の皆さん、よろしくお願いいたします。