2009年05月01日

■香川県漆芸研究所について。2

さて、前回の続きです。
今年の4月から新規オープンした香川県漆芸研究所について、修了生としての立場から、後輩たちへのアドバイスを書きます。
あくまでも一私見としてですが、何か参考になれば幸いです。^^

●修了後の就職先、進路はどうしているのか。
こんなに恵まれた授業環境で、「漆」という特殊技術を身につけたら、きっと前途揚々じゃないのかしら?と夢見る人も多いと思いますが、実際はどうなのでしょう。
手っ取り早い例で恐縮ですが;;、松本と私のようなスタイルで仕事をしているのは、あらゆる意味でまれなケースじゃないかと思います。この「あらゆる意味」というのは、漆で自活しているということ、高級品とはいえ生活の器つくりをメインにしていること、日本産漆しか使わないということ、どれも含みます。
が、今回はこの情報を必要としているような人に特に関係ある話題に絞っていきますね。

香川県漆芸研究所の公式ホームページのQ&Aには「○修了者の職業は? 漆芸研究所ができて今年までの半世紀の間に約370人の修了生が出ていますが、漆芸作家の道に進んだ人が110人近く、漆器業界に入った人が150人近くになります。」と、参考になる文章をちゃんと入れて下さっています。
ただ、近年の状況、とはいっても私の在所中からここ最近までの知っている修了生の進路だけに限ってですが、若干印象が違うように思います。
まだ漆器産業が華やかだった当時は、漆器業界への就職もたいへん多かったはずですが、今はほどんどないと言ってもよいほど非常に少なくなってきているのではないでしょうか。
入所する研究生の中には、木工作家さんだったり伝統工芸師さんだったりはたまた由緒ある蒔絵師さんのおうちの息子さん娘さんもという方もけっこういらっしゃいます。そんな人たちは、研究所で習う香川三技法・蒟醤、存清、彫漆を修了後も続けるとは限らないのですが、しっかり研究所で勉強してそれを肥やしにして家の仕事を頼もしくやっていますよ。

そしてそんな看板は持っていなくても、個人で作家業をされている方は、わりといらっしゃいます。その大半は、年1回の日本伝統工芸展の出品作品を制作する作家さんです。出品作については厳しい審査があって、落選するともちろん工芸展には作品は展示されません。入選すると、その年度の日本伝統工芸展に作品が加わり、たいへん名誉なこととなります。そして、入選作品は各地の催事場や美術館をまわります。会場が美術館の場合はちょっと分からないのですが、会場が百貨店さんの場合は現場には表示されませんが、作品には価格が付けられます。作品をごらんになったお客様が買ってくださることもあります。
この日本伝統工芸展には、陶芸(第1部会)、染色(第2部会)、漆芸(第3部会)、金工(第4部会)、木竹工(第5部会)、人形(第6部会)、その他の工芸(第7部会)と七つのジャンルに分かれています。その各ジャンルの「ミニ伝統工芸展」ともいうべき 日本伝統漆芸展や、各地方の伝統工芸会で開催する日本伝統工芸近畿展(例)などがあって、そちらも合わせて出品作を作って出す方も多いです。もちろん、入選作は会場で売れることもあって、たいへんな励みになります。
日本伝統工芸以外の会派、例えば日展(日本美術展覧会)系の作家さんへの道を歩む方は、以前はいましたが今はほとんどいないと思います。
これは、漆芸研究所の講師に携わる先生方が全員、現在は日本伝統工芸の会員であるため、修了生もその影響を色濃く受けているのでしょう。(松本が研究生のことは、まだ日展系の非常勤講師の先生もいらしたそうです。その方が最後でした)
そのほか、弟子入りする人もけっこういたりします。
やはり今でも、お弟子さんにいくのは日本伝統工芸会の先生のところが多いのかな? どの系統にいくのであれ、どんな先生を師匠としてつくかで、その予後がずいぶん違ってきます。
もちろん、どの会派とかにも属さず、個性を生かして自分なりの作家活動をしている方もいらっしゃいますが、そういった人は今でもかなりの少数派ではないでしょうか。
作家業以外に、工芸関連の施設にまんまと?就職できる人もいますし、修復などにたずさわる人もごく少数ですがいたりしますよ。
残念ながら、研修所から就職先の斡旋とかはまず考えない方がいいでしょう。うまく就職できた方の大半は、自分で就職活動して探してきたところがほとんどだと思います。

* * * * * * * *

…さてさて。
正直言って、修了生で漆でちゃんと生計を立てている、つまり「漆で飯を食っている」という方はたいへん少ないです。
というよりそれ以前に「漆」を続けている方自体が少ないかも…。きっぱりと足を洗って?もっと安定した職業についたり、家庭に入ったりしている方のほうが多いように思います。
でもこれは、例えばデザイン学校に行った方たちが全員その道についたりすることはないように、当然といえば当然のことですね。あせあせ(飛び散る汗)
時間が経ってから自分の適性がわかったりすることもあるし、事情があって続けられないことがあるのもよくある話です。
また、日本伝統工芸展へ出品する作家さんになったとしても、生活はたいへんです。
何ヶ月も手塩にかけて作った出品作が入選するかは、当然ながら分かりません。また、入選して会場に並んだとしても必ず売れるとも限りません。いずれにしても収入面では大変厳しく長年続けるには、漆教室をしたり全く別の仕事やアルバイトをして収入を得たり家族に扶養してもらったりと、よほど裕福でないかぎり金銭面での苦労はかなりあると思います。
もちろん、どの会派にも属さない自由な作家さんになっても経済面は辛いです。仕事の運営センスがよりシビアに必要になるので、方向性をしっかり決めていないともっときついかもしれません。
いずれにせよ、それでもバイタリティーのある人は頑張って自分のカラーを出してたくましくやっていますよ。^^

さて、次の3回目で最後にしますが、一番カナメとなるお話をします。

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posted by 宮崎佐和子 at 20:54| Comment(9) | TrackBack(0) | ■ 香川県漆芸研究所について
この記事へのコメント
宮崎さん、こんにちは。
前回の記事のコメントへご丁寧にお返事いただき、ありがとうございます!
確かに、日照時間の多さも香川の良さのひとつですねー。
(…実は「学生」ではなく「研修所生」なのです(笑))
宮崎さんのお話から、私が思っていたよりも
きゅう漆の授業数が少ないように感じましたので、
見学の際に研究所の方に詳しくお伺いしたいと思います(^-^)
(忘れてましたが、年度末が追い込みの時期になるのは私も同じなので(汗)
香川へは九月〜十一月に行くのが良いかなと考えが変わりました…。)

卒業後の進路は、輪島とよく似た感じのようですね。
蒔絵師さんの息子さん、というのは
京都などの他県からもいらっしゃるのでしょうか?
第三回も楽しみにしています(^-^)
Posted by citron at 2009年05月02日 09:02
citronさん、こんばんは!
コメントを下さいまして、ありがとうございます。^^

なるほどなるほど、citronさんは輪島で勉強中なんですね。たぶん香川との気候の違いにビックリしますよ。(雨が降らないので、傘なしでも暮らせますし、夏はいつも断水の危機にさらされます)

確かにきゅう漆の比重は多いとはいえません、「香川の三技法を学ぶ施設」ですから、刃物を使う技法、加飾がメインのところなんですよ。特に蒟醤、彫漆は彫りの仕事が大事になります。乾漆もしますが、きゅう漆の授業じたいはほんとに基礎の内容です。もしきゅう漆の基礎をお持ちで、もっとしっかり習いたいなら、ほかも調べた方がいいかもです。

>卒業後の進路は、輪島とよく似た感じのようですね。
蒔絵師さんの息子さん、というのは
京都などの他県からもいらっしゃるのでしょうか?
第三回も楽しみにしています(^-^)

輪島のことは詳しくは知らないんですが、輪島と香川、おっしゃるとおり、進路の内容はそう変わらないと思います。所のコンセプトが同じですからねえ…。
研究生は、地元より他県の人の方が多いと思います。最近は北海道から沖縄まで、全国から希望者があるそうですよ。
景気がよくないので、次回の応募者も多いかも知れませんよ〜。

で、次回を楽しみにしてくださってありがとうございます。(もう書いてしまっているので、明日アップすると思います)
ただ、私は所から所へすぐ移るのは、長い目で見て決してお勧めしていません。なので、citronさんにとってあまり快い内容でないかもなんですが、それでも読んで心にとめてくださると、書いた甲斐があります。
ではでは、よろしくお願いいたします☆
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年05月02日 23:38
こんばんは。今年は研究所展がないかも、とのことで修了展にすべて作品をだすかもとのお話がありました。おそろしや、、。
つやあげでしたら、作品の調子でいきますと10月以降であれば、だれかしらつやあげ、もしくはそれにちかいところまで進んでいるかもしれません。

以前よりも研究所は見学はしやすくなったように思います。
昨年度は輪島から研究員で来られている方がいらっしゃいました。
Posted by アベ at 2009年05月03日 22:36
アベさん、はじめまして。
アベさんは現役の研究所生の方なのでしょうか?
つや上げの時期に関しての情報、ありがとうございます!
ちょうど秋頃に香川へ行こうと思っていましたので
10月以降に〜、という事であればとても楽しみです。
機会があればアベさんともお話しさせていただきたいです(^-^)
Posted by citron at 2009年05月03日 23:44
アベさん、こんばんは!
わっ新情報をありがとうございます〜。

>こんばんは。今年は研究所展がないかも、とのことで修了展にすべて作品をだすかもとのお話がありました。おそろしや、、。
つやあげでしたら、作品の調子でいきますと10月以降であれば、だれかしらつやあげ、もしくはそれにちかいところまで進んでいるかもしれません。

…その頃に呂色とっている人がうらやましいですね。^^;
ってそれはともかく;; 、やっぱり秋の催事はないのかあ。隣接していた工芸高校にシンクロさせていただけなんだろうし、その分、修了展を立派にやる方針なんでしょうね。

>以前よりも研究所は見学はしやすくなったように思います。
昨年度は輪島から研究員で来られている方がいらっしゃいました。

確かに、どんなお客様がいらしてももう安心!という感じでしょうか。以前は、中身の凄さと建物が釣り合っていませんでしたものね。
輪島から来られる人もいらっしゃるということで、また研究所の雰囲気も変わっていくんだなあ。(松本が研究生のころ(20年近く前)のことを聞くと、また一段と隔世の感があります…)

もし、輪島からcitronさんらしき人がいらしたら、ぜひお話をしてあげてくださいね。
ではでは、これからもよろしくお願いいたします。^^
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年05月04日 21:50
Posted by 井上 孝則 at 2009年10月06日 22:45
井上さん、はじめまして!
この日記にコメントを下さいまして、ありがとうございます。^^
うまく本文が反映されていないみたいですね。;;
ちゃんとシステムが作動しなかったのかな… 
申し訳ありません。
お手数なのですが、もう一度かきこんでくださいますと嬉しいです。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします☆
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年10月07日 00:25
Posted by 井上 孝則 at 2009年10月07日 09:44
井上さん、こんばんは!
香川県はそんなに風は強くないのですが、お住まいのところは大丈夫ででしょうか?

…何度も、すみません〜;;
今回もうまく本文が入りませんでしたね… なぜでしょうか…。
システムの相性がうまく合わないのでしょうか。(> <;
きっと書き込みボタンを押す前には、コメント欄にいろいろお書きくださっているはずなのに… 
なんとも申しわけないです。

もし、ご面倒でありませんでしたら、携帯など別の方法で書き込んで下さると入るかもしれません。
(うう… でも面倒かな ;;)

よろしければ、簡単な文章でチャレンジして下さると助かります。
お手数かけて恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。(_ _)
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年10月08日 01:57
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