
前回、前々回の続きとして「香川県漆芸研究所で勉強してみたい」と思っている将来の後輩たちに、引き続き私見で恐縮ですが、私なりのアドバイスをさせていただきます。
今回のはたいへん重要だと思うことですので…
ちょっと重い内容ですが(松本に『しょっぱい話やなあ〜』と言われてしまいました ;;)心して?参考にしてくだされば幸いです。

↓以下、愛想ない文章になりますが、どんどんいきます。
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漆芸研究所に在所して勉強する3年間は、かなり特殊な環境での日々です。個性的だった人、将来のイメージがあった人もすっかり同じ「色」に一度染まってしまいます。
修了後もその気分をかなり引きずって、すっかり自分らしさを取り戻すのは数年かかりますし、一生そのまま…みたいな場合もあります。ちょっと語弊があるかもしれないけど一種の後遺症のようなもの、といったらわかりよいでしょうか。前回も書きましたが、これも一つの「縛り」でなかなか自由になれない人もいます。これがやっかいで、自分では気づかなかったりするのですね…。何年もたって、「あれがそうだったのか

また、漆芸研究所は非現実的な空間です。
心していないとこの空気に慣れてしまい、これも今後の「縛り」になり得ます。「ちゃんと稼がないと食べていけない」という当たり前のことは全く考えないことを前提としたうえで、理想の技術、非現実な世界の追求をする3年間です。この空気感に3年も浸っていると現実的な平衡感覚が失われてしまい、修了して社会に放り出されうまく生きていけないことにたいへん苦しんだり、自分が見えなくなって、長年さまよって青春時代の大事な数年間を損なったりする人をいろいろ見たりしました。これはかなり深刻だと思っています。女性なら迷いの時期が長くても人生の軌道修正はいくらでもできるのですが、男性の場合はやっかいです。その間、同世代の人が社会的地位を得てちゃんと家庭を持って人生の基礎を築いているのに自分はどんどん世間とずれてくるのです。
またその延長で「学生ジプシー」とでも表現したいような人たちも多く出てきます。社会に放り出される前に「学生」の立場をキープしたいのかな?「まだまだ技術を習得しないと不安だ」と大学→各地の研修所、研究所などを学生としてずっと渡り歩いてしまうのです。そうなると義務教育時代からずっと学生のままで40才近くになることも簡単で、これも社会と解離した人を生み出します。おそらく各地の公共の研修所の「授業料が無料」という設定が、そういったことをさらに容易にしている一因かもしれません。国が豊かで、親も健康でずっと学生の子供を養う財力があればこそですが、世も不安定になってくるし親御さんも年をとってくるでしょう。いざ「ふつうの仕事に就職したい」と思うようになっても、うまくいくといいのですが…。
当然ですが修了生のその後の人生まで漆芸研究所は面倒みてくれないのです。技術を学ぶところなんですから…。
めでたく研究生になると日々、課題に忙殺されますが、入所している少しでも早い時期に進路を決めて情報収集することを勧めます。安心して学生気分を満喫していると、すぐ修了→なんの準備もなく社会へ、というパターンになります。
また、ほかの留意点もあります。
講師の先生方と濃厚な時間を過ごすことになるので、その影響を強く受けます。卵から孵ったヒナが最初に見たものを親を思うようなものでしょうか。その講師の先生方が全員、現役の日本伝統工芸会の作家さんで授業の内容も日本伝統工芸会の内容のもの、となれば、ごく自然な感情として、修了後も「日本伝統工芸の作品を作らないと、教えて下さった先生方に悪い」と思ってしまいがちなのです。が、気にしなくていいのです。自分らしさを生かして生きて下さい。あとは個々の人生ですから…。
ちなみに、研修所の講師の先生方がとても人間的な魅力にあふれているのでつい憧れてしまうものなのですが、みんなが講師の先生方のような崇高な生活ができると思ってはいけないのです。せっせとものを作って売ったり足を棒のようにして営業に通ったりお客さまに一生懸命頭を下げているのではなく、先生として慕われ講師の収入を得たり公共事業の文化的な仕事を受けたりして生活ができるような、たいへん限られた環境の方たちです。先生方には、何十年も地道に積み重ねた下地があり、ふるいにかけられその結果今の地位につくことのできた選ばれた方なのです。そんなご苦労は生徒にみじんも見せませんが、その長年かけて形成した立派な表面だけを見て勘違いすると現実とのギャップに必ず行き詰まります。
また、意外と知られていませんが、漆芸研修所は漆器業界との関わりもほとんどないです。香川の漆器業界と作っているものとは全く違うし、(香川漆器として有名な後藤塗、象谷塗は学びません)いわゆる○○塗りといった産地のことはまったく学んだりはしません。通産省系統の内容はまず出てこないです。
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…ながながとなりましたが…どうぞ、ご参考に。
「行きたい!」と思っている方は、もう心が半分決まっていますから、上の内容を読んでもピンとこないかもしれませんね…。(でも修了したあとに読むとヒシヒシと分かります)
これから研修所に入る後輩たちは、自分をしっかり持ってほしいと切に願います。
いろいろ書いてしまって、中には辛口の部分もありますが、研究所を愛するがゆえにと思ってくださいね。

今でも、尊敬し感謝の念が絶えませんし、すばらしい学びの場所と思っています。あとは、入る生徒さんの心がけしだいだと思うのです。「自分探し」の場にすると、いっそう自分を見失います。
どのみち「漆」の道を選ぶだけで、イバラの道です。^^; (イメージとしては「絵描きになる!」と言うのと同じくらい?果てしないものです)もし自活を希望するなら、技術だけでなく経営感覚も資金も必要です。
後輩たちに幸多いことを願っています。
長くなるので、追記にしますね。
最近「すてきだな」と思う修了生のスタイルを思い出したので書き記そうと思います。
女性ならではの人生ですが、結婚・子育て後に落ち着いて自分に合った形で漆をはじめるというものです。これ、意外といいと思います。若い人は「結婚・子育て後なんて待ってられない!」と思うかもしれませんし、実際私も思っていたんですが;; 人生は長いです。子育ても十年たてば少しは時間ができますし、経済面もご主人さんに生活を支えてもらって許す範囲でやればいいので無理はないです。
自分の好きなものを作ったり、お教室をひらいたり…。
「主婦の趣味」といってしまえばそれまでなんですが、なかなかの手腕を発揮する人もいて、これがあなどれないんですよ。
男性には不向きな話ですが…
ぜひ参考にしてくださいね。
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そして、これは本当についでのことなんですが、私たちが行っていた当時の香川県漆芸研究所の様子が分かるのがこの記録です。
雅子の漆ページ
京都の蒔絵師さんの娘さんで、今は雅子の漆芸教室というサイトを持ってらっしゃいます。(彼女は一学年下でした)当時はインターネットをしている人が少なかったのでその時からサイトを持っていた彼女はとても新鮮でしたよ。
ちなみに…
雅子の漆ページの中に、松本が2000年に岩手県浄法寺へうるし掻き研修に行った時のレポを解説付きで載せてくれてます☆
※岩手からの特派員通信
…「知りすぎた男は消される運命というのが世間の相場で」と書かれてしまっているんですが、笑 うん、なんとか消されずにがんばっていますよ。
でもまだ体験していない人にとっては、
重くも軽くもない話で、
まず見る前に飛ばなくてはわかりませんし、はじまりません。
可能性があるかもしれないし、ないかもしれませんから。
今回の記事も、真剣に読ませていただきました。
私自身は入所前から日本工芸会の方々の作品に強く惹かれていましたので
今の環境はとても居心地がよく、刺激的だと感じますが、
工芸会の方とは違う手法で漆の魅力を引き出そうとされる方の場合
かなりの葛藤や自分自身を否定されるような気持ちを
味わう事が珍しくないように感じています。
その葛藤を経験した上で、自分のスタイルを貫いて活動されている先輩方は
お話しすると皆さんとても素敵な方なのですが、
そのように毅然と生きるのは、決して簡単ではありませんよね…。
また、現時点で自分の作りたい物が割と明確にありますので
「研究所の色に染まりかねない」事はほとんど恐れていませんが、
自らが「学生ジプシー」となってしまう可能性は強く感じており、
それが唯一の私が進学をためらう理由です。
キンマと籃胎を学びたいという思いから進学を検討しはじめましたが
新たに三年間を商売からかけ離れた一点物制作に費やすならば
たとえば在学中から公募展に出品するなど
積極的に自主制作にあたろうと思いますし、
それができないようであれば安易に進学すべきではないと思います。
今回の宮崎さんからのメッセージを読み、改めて気が引き締まりました。
実はまだ卒業まで数年あるので結論は急いでいないのですが、
「研修所以外の場所の事を知りたい、視野を狭めたくない」という
焦りのような気持ちから、つい色々とご質問してしまいました(^-^;)
お忙しいところ大変ご丁寧なお返事をいただき、とても感謝しています。
研究所の事も調べつつ、日々の課題と自主制作を頑張りたいと思います。
今回は本当にありがとうございました。
長い文章を真剣に読んでくださいまして、ありがとうございます。^^
>宮崎さんは体験を振り返っておっしゃいます。
でもまだ体験していない人にとっては、
重くも軽くもない話で、
まず見る前に飛ばなくてはわかりませんし、はじまりません。
可能性があるかもしれないし、ないかもしれませんから。
すみません、いただいた文章がちょっと分かりにくくて。;;
「未体験の人(まだ入所していない人)には、今回触れた内容が重いとは限らない」
「可能性は誰にでもあるかもしれない」
…ということでしょうか。
実際に入って来る子の大半は10代20代前半のまだ世知辛さを知らぬうぶな学生さんなんですよね…。まだ自分が固まり切っておらず、この特殊な空気に籠められると、だんだん、、、、という次第です。
そして可能性についてですが、もちろん、可能性は誰にでもありますよ!!
今回の記事のようなこういった内容は「研修所に入所しようか考慮中」の方のために書いたのです。
なので、そうでない立場の方には、わかりにくいものでしたね。;;
まあ、あくまでの一私見なので「将来の参考に読んでおきたい」という研修所の応募を考えている人だけでも、心にとめていただけたらなって思っています。
長い文章をちゃんと読んでくださったうえ、お返事を書いてくださって、ありがとうございました。^^
いわんとすることをかなり理解してくださってるみたいで、ホッとしています。
でもでも、私たちもそうであるように十人十色の生き方があって、けっして「・・はよくない」とかそんなことは思っていませんので;; 、どうぞそこはお間違えないようにお願いします。
いろいろと取材もされていて、やりたいものもかなりはっきりされているんですね。
まだ卒業までお時間があるのなら、これからまた新しい展開が見えてくる可能性も出てくるかも…。
香川にいらっしゃるのは大歓迎ですよ。
以前の研究所は古い建物だったので、今ひとつぱっとしませんでしたが;;(中身は凄いんですけど)今はきれいなところなんで、また印象も違うと思います。
また、前回とはcitronさんの視点も成長して異なっているはずなので、新たな発見もアリかと思います。
…さてさて、こちらこそ、おせっかいな?お話におつき合いくださいまして、ありがとうございました。
ちょっと昔のことを思い出して楽しかったです。
また、ときどきのぞいてくださいますと嬉しく思います☆