2009年08月06日

■漆の「天日くろめ」の様子です。

お待たせしましたexclamation
天日…つまり自然のお日様晴れと人力による、漆の精製『天日くろめ』を先日しました。

「漆の精製」は、現在はプロの漆業者さんが機械を使って行うものです。
でも、ノスタルジックな作業として、または漆の原点に近づく作業として、漆の団体や作家さんが、今でも行っていたりするんですよ。


バッド(下向き矢印)機械による精製の様子。
機械くろめさて「漆の精製」は何かというと…。
(以下、ちょっとややこしい説明文になります)

木から採取したそのままの樹液は「荒味うるし」、それの木クズなどを濾しとっただけのなまのうるしを「生うるし」と呼びます。
この「生うるし」、ウルシの木の体内で作られた液体ですが、主成分の樹脂「ウルシオール」のほか、何割かの水分、そしていくらかの糖分やゴム質などが入り混じった天然のエマルジョンです。
この自然に混じっている「何割かの水分」を「生うるし」から取り除き、やや不安定なエマルジョンを均一化してやる作業のことを「精製」、用語では一般的に「ナヤシ(均一化すること)」「クロメ(水分を取ること)」といいます。
この「ナヤシ」は、生うるしを「撹拌」することで行い、「クロメ」は熱を加えることによって水分をとばしてやります。
この漆の精製、ナヤシ・クロメはたいへん繊細な作業でなおかつ作業のそばからなかなか離れることはできません。特に、精製中の温度の温度が上がりすぎると、漆の中の酵素が破壊されてしまうので、温度管理にはたいへん気をつけます。


* * * * * * * *

工房で使っている漆の大半は「生うるし」です。
最近はさすがに少なくなりましたが、上塗りの漆さえも「生うるし」を使っていました。(塗り上がりの表情がたいへん面白いです)
そして今回は、精製してみたいなあと思う漆が、何貫かたまってきたので、じゃ工房で天日精製してみよう!ということになったのです。あせあせ(飛び散る汗)

8_1_hune_.jpg竹内工芸研究所の竹内義浩さん(2007年日本うるし掻き技術保存会長期研修生)から、漆クロメ用の「フネ」と「カイ」を
お借りして…。



8月4日の朝、庭にセッティングしました。
今回、精製したのは、2006年大森俊三さんの盛り辺です。

バッド(下向き矢印)天日くろめ、開始です。

「フネ」を傾けて中の生うるしが流れるようにし、そして扇風機をセット。そして、一番大事な「直射日光晴れ」が中のうるしに当たる面積をを調節できるようにしています。
8_4_seisei_2_.jpg
クリックで写真が拡大します。

…さて、そこで。
上の写真は開始直後なのですが、漆のことを知ってらっしゃる方は「あれ、生うるしの色がちょっと…?」とお気づきの人もいらっしゃるかもしれませんね。
世間一般で、「漆の精製」前、もしくは精製が始まったばかりの「生うるし」は、
8_6_yama_eda.jpg←こんな色 をしています。
漆は、水分が多いとこんなクリームっぽい乳白色になります。(ちなみに左の写真の漆は、2006年大森俊三さんの枝漆です)
「一般的な生うるし」は、こんな白っぽい色で、これが精製が進むにつれて濃い飴色に変わっていきます。そのさまはなかなか面白いのですが、工房の今回精製した「生うるし」は、最初からほぼ飴色だったので(水分が最初から極端に少ない)、天日精製によるその変化のさまは、写真では少し分かりにくいかも知れません。あせあせ(飛び散る汗)



さて、気をとり直して… こんなふうに道具を使って、クロメを行います。(作業中の音声入りです)

8月4日午前11時20分ごろ開始、10分経過。
天日くろめ1
天日くろめ1
by waurusi
気温は30度以上。フネにはいろんな計器を設置しています。

最初は、うるしの粘度がやや高く、流れ落ちる速度も少しスローです。水分がとんでクロメが進んでくると、このうるしの流れる速度も変わっていきます。

さて、この時はほぼ全面に日光晴れが当たっており、すぐ漆の温度が急上昇。動画の中の音声にもあるように、このあと日の当たる部分を少なくしました。


8_4_seisei_3_.jpg
クリックで写真が拡大します。



そして「天日くろめ1」から10分後の動画です。

天日くろめ2
天日くろめ2
by waurusi


漆の流れ落ちる速度が、上の動画の時に比べて、早くなっていることがお分かりでしょうか? 生うるし中の水分が少なくなって、粘度が低くなってきています。


8_4_seisei_4_.jpg途中、透明なプラスチック板にクロメ途中の漆を少し伸ばしつけて、色や不透明ぐあいをチェックします。(このぐあいは、なかなか微妙で説明するのが難しいです)
こうして、確認しながら、よい加減と思うまでクロメ作業を進めていきます。








そして、開始から約30分後。
天日くろめ3
天日くろめ3
by waurusi

漆が、かなりサラサラになってきています。

これからほどなくして、松本が漆のクロメ状態を確認して「上がり」の判断を出しました。

開始から片づけまで、40分ほど。
もともとの生うるしが、水分の少ないものだったこともあって(なんせ、大森俊三さんの当時の盛り漆ですから…)あっけないほど早く終わってしまいました。あせあせ(飛び散る汗)
今回は、撹拌して漆のエマルジョンを均一化させる「ナヤシ」ではなく、水分をとばす「クロメ」が目的だったことが早く終わった理由の一つかもしれません。



バッド(下向き矢印)「天日くろめ」が終わって、樽に戻されたうるし。
8_4_seisei_5_.jpg
クリックで写真が拡大します。


バッド(下向き矢印)工房の作業部屋に戻って、濾しました。
8_4_seisei_6_.jpg

8_4_seisei_7_.jpg
うん、なかなかきれいないい色だと思います。ムード
この自家精製漆は、これから上塗り漆なる予定… 松本の予想では面白い塗り肌になるはずなんです。


* * * * * * * *

さて、今日は長い記事になりましたが…
読んでくださってありがとうございます。

8_4_semi_.jpgおまけ。
漆の木の樹液を吸っている、クマゼミさん。写真を拡大して見てください、ストローをブスッと幹に突き刺していますよ。
おいしいジュースを飲んでいる感じなのでしょうね。

posted by 宮崎佐和子 at 23:55| Comment(2) | TrackBack(0) |   漆の精製
この記事へのコメント
こんばんは。

そちらは30℃以上あるんですか!
うちの方は日中の最高気温が20℃ちょっとで、寒く感じています。
同じ日本なのにびっくりですね(笑)。

漆の精製作業は、テレビや写真では見たことありましたが
つまり、漆の水分を飛ばす作業なんですね。

動画も見せていただきました。
きっと大変な作業だとは思うのですが
なんだか楽しそうに見えてしまいました^^;

本当に、手間をかけられて
うるし作品は出来上がるんですね。
Posted by GIL at 2009年08月07日 01:24
GIL さん、こんばんは!

はい、30度以上ありますよ〜 ^^
でも、去年ほどは暑さは厳しくありません。(昨年は死ぬかと思いました;;)

>うちの方は日中の最高気温が20℃ちょっとで、寒く感じています。

えっ、20度以下なんてビックリです!
もうお盆が来るというのに… 今年は冷夏なのでしょうか。
作物にあまり影響が出ないことを祈ります。


漆の精製作業は、漆に関連する仕事の中で欠かせないものの一つです。(工房では、あまり精製漆は使いませんが…)
でも、GILさんのおっしゃるように、漆はたしかに手間のかかるものだと思います。こだわればきりがないですし。^^;

で、さっそくこの時の天日クロメの漆を、松本は使ってみたらしいですよ。
また、お見せしたいなあと思っています!
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年08月07日 23:55
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