2009年08月15日

■漆の世界に入ったわけ。

今日は終戦記念日ですね。
ぎらぎらと照りつける太陽、セミのけたたましい鳴き声、線香の匂い…。この「8月15日」という日は、やはり特別な日だという気持ちが強くなります。子供の頃の思い出に基づいているのでしょう、このような鮮烈な印象とともに、夏の太陽の強烈な光のように焼き付いています。
私は、もちろん戦時中の厳しい時代を知らない世代です。
そういった記録の書物はたくさん読みましたが、よく理解できず、なんともやりきれない、説明できない気持ちになるだけだったことを覚えています。
ほんの子供だったんですね。
しかし、年を重ねるにつれ、そして人生や世の中について多少は分かるようになるにつれ、その時代のことを自分なりに想像し、解釈するようになっていきました。
そういったことを思い出しながら、今日はいつもの日記と違うことを書いてみようと思います。お付合いくださると幸いです。

さて、私事でたいへん恐縮なのですが…。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私が「漆に人生をかけよう」と決心したのは27才の時です。それまでは地方の出版社に勤めていたのですよ。はたちで就職し、一人暮らしで仕事は忙しく辛かったけど、やりがいはありましたし、仕事をつうじてたいへん勉強をさせていただきました。

それがなぜ、畑違いの分野にいってしまったのか…。
思えば理由は一つだけでないのです。
ほんとうにいろんな気持ちがありました。その当時のたいしたことのない、等身大の頭を使って、それでも考えて悩み抜いて、自分自身に問い、またいろんな方に意見を尋ね、そして遅まきながらやっと今後の自分の人生の方向を決めたのですね。
その理由の一つに「ささやかでも、後世の世代のために残す財産をつくりたかった」という思いが強くありました。
人ひとりが一度の人生でできることは、たかがしれているものです。その「何かを積み重ねる仕事」に選んだのが「漆」だったのです。「漆」という世界で、微力ながらも後世へ積み重ねていく仕事をしようと決意をしました。
あらためて言うまでもないことですが、焦土になった国から今の社会を作り出したのは、祖父や父の世代の人々です。「日本を立て直したい、子供たちが飢えない暮らしをさせたい」の一心で、必死で働いてきてくれたのでしょう。
また、さらにそれ以前の世代の無数の人々が生きて死に、気の遠くなるような年月をいくつもいくつも重ねて、現在の社会があるのですね。
なのに、自分たちの世代はその豊かさを、なんの疑問もなく受け取り、さらにそれだけではなく、先人の積み上げた財産を無造作に喰い潰しているということにはたと気づいた時は、なんとも言えぬ思いになりました。

ほんの身近な話を出させていただけば、私の祖父は南方に出兵していましたし、戦死者もいます。祖国を守ろうとした祖父たち、家族を守った祖母たちの真剣な思いは、現在からどのくらい推し量ることが出来るでしょう?
しかし、その当時の念の大きさからすれば何十分の一かには薄まっているかもしれませんが、不思議なことにそれはいつの間にか私の胸の内にあり、気づけば支えの一つになっているのです。

さらに、最近気づいたことがあります。
私は、どちらかといえば父親似だと思うのですが、ある時期から母の方によく似てきました。それからさらに年を重ねた今、ふと鏡を見ると、亡くなった祖父の面影が自分の容姿に加わったように感じるようになりました。もちろん女性にとって、自分の若い頃の容姿からだんだん遠ざかっていくのは、正直ありがたいものではないですが…あせあせ(飛び散る汗) 
もしかしたら、会ったことのない祖父母や曾祖父母の特長も、知らず知らずのうちに、だんだん加わってくるのかもしれません。

…そういえば、ふと思い出したことがありますので、この機会に書かせていただきますね。
出典は失念しましたが、戦時中、特攻に行った兵隊さんの遺書を思い出しました、その方は、奥様と赤ちゃんがいらしたのですが、幼い娘に宛てた文がありました。
「父は役目を果たすためもう戻らないが、あなたは父のない子ということで悲しまないでほしい、あなたの姿は父に生き写しだし、父はずっとあなたと共にいる」という内容だったと思います。
幼子を残して逝くという無念さは、今なら少しは察することができようものなのですが、それを読んだ当時の私ときたら、「それでも娘は生涯父に会えずぬくもりも知ることはない、あくまでも残される者への気休めの言葉にすぎないのではないか」と思ったものです。
しかし、それから歳月が経ち、自分自身の姿や内面に父母、祖父母の容姿、自然と受け継いだ気質(長所も欠点も)を強く感じるようになるにつれ、そうした先祖の慈愛やいつくしみ、そして、うまく言葉で説明できないのですが「先人の意志」のような存在を自身の内部にだんだん感じるようになりました。
その兵隊さんも、自分似のわが子に、そのように伝えたかったのではと思います。
私自身は恥ずかしいほど出来ていない人間ですが、もし本当に「先人の意志」のような、そんな魂が私のような者にも宿り、見守ってくださるのだとしたら…? 
だからこそ、精一杯生きなければといっそう感ずるようになりました。

それにしても「類は友を呼ぶ」とはうまく言ったもので…。
今はご存知のように松本という超漆おたくのパートナーに恵まれ、一緒に漆の仕事をしています。
昔の人の苦労に比べればどうでもないことですが、最初はまったくやっていけませんでした。
それがだんだんと、お客さまやビジネスパートナーさまにも恵まれるようになり、かろうじて日々の暮らしだけはすることができています。
それにしましても…。
自分の生活や仕事をふと見回していますと、材料にしろ道具にしろ、そして身の回りのものにしろ、不思議と「自分だけの力で得た」と思うものがほとんどないんですねえ。
この日記に、日々漆のことを書かせていただいてますが、もしかしたら「漆のことをいろいろ分かってて、すごいな!」と勘違いされている方がいらっしゃると困りますので、ちょっと弁解?させていただきますね。
それは、本当にとんでもないことで…。
日記の文章だけでなく、私自身はただの媒体にすぎず、長い年月の間に多くの方が積み重ねてきた財産を、ひょんなことに私のような者がそれをちょいとお借りして、読んでくださる方にお見せしているだけのことです。


気がつけば、お盆休みもあとわずかですね。
皆さま、ふるさとでゆっくりと骨休めしてくださいね。^_^

posted by 宮崎佐和子 at 21:51| Comment(8) | TrackBack(1) |   思うこと
この記事へのコメント
おはようございます。でるでると申します。いつも、記事を拝見しております。暮らしと 物づくりの心の据えどころ、ありがたく感慨がこみあげました。心からほとばしる一粒の種、わたくしほか数多くの理解者の方の心に植えられたものと思います。漆オタクですか・・・よさを知り尽くしたいという欲望の持ち主様ですね。 みかん国ですから余計に身近に感じています。よき活動の日々を。
Posted by でるでる at 2009年08月16日 06:28
でるでるさん、はじめまして。
いつも日記を読んでくださいまして、またコメントを書いてくださいまして、ありがとうございます。^^
つたない者のお見せするものですが、多少なりとも汲み取っていただけるのは有り難いことです。

>漆オタクですか・・・よさを知り尽くしたいという欲望の持ち主様ですね。

はい、まさにそんな感じなんですよ〜。
この時期でしたら、暑苦しいくらい?の貪欲さで、松本は日々漆に向き合っています。
私にはまったくない素材の取り組み方なので、まあよい組み合せなのかもしれません。

このたびはありがとうございました。
また、ときどき日記をのぞいてくださると嬉しいです。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。(_ _)
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年08月16日 20:17
出典は、植村少尉が娘の素子に残した遺書ではないかと思います。

ところで、私もいつか漆を自分で掻いてみたいと思っています。
ウルシの木を探すのが大変そうなので、今年はヌルデで練習してみます。
子供の自由研究のネタなんですが…。
Posted by KOH at 2009年08月16日 23:44
KOHさん、はじめまして!
このたびはコメントを下さいまして、ありがとうございます。^^

漆掻きにご興味があるということで
ちょっと慌てて??お返事をさせていただきます。

>ウルシの木を探すのが大変そうなので、今年はヌルデで練習してみます。

そ、それは、ぜったい思いとどまってください。>_<;  きっと、ものすごくかぶれて辛い思いをされます…。
おなじウルシ科の木なのですが、ウルシノキとハゼ・ヌルデは別の木で、ウルシノキのようなウルシ樹液は、キズをつけてものぞめないです。
(しかも、すごくかぶれやすい木です)
ウルシノキは、基本的に人が管理栽培していて、ほとんど自生はしていないので、岩手や茨城の産地に行かれるのが、いちばんよいと思いますよ。

※この記事のコメント欄をごらんください。
http://waurusi.sblo.jp/article/30801687.html#comment

お子様の自由研究のお手伝いなんですね。^^ でも、お父さんのほうが張り切ってしまう?気持ちも分かります、楽しいですものね!


さて、出典を教えてくださってありがとうございました。
その素子さんというお嬢さんも、今ごろはいいおばあちゃんになって、幸せになってらっしゃるのでしょうか。(そうであってほしいです)
あの時代の方の残された文は、濃密な思いがこめられていて、迫ってくるものがありますよね…。

ときどき、日記を見て下さると励みになります。^_^
これからも、ぜひよろしくお願いいたします。
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年08月17日 10:23
回答ありがとうございます。
自生していないとなると自由研究には難しそうですね。
ハゼの実からモクロウを作ったことがありまして、
冬のハゼノキやヌルデには少し慣れています。
木を伐採してシイタケの種駒を打ったりもしました。
ウルシが無理ならヤマウルシで…と考えています。
Posted by KOH at 2009年08月23日 00:14
KOHさん、お返事をありがとうございました☆
いろいろ、山の木にお詳しいんですね。
私はほんとにウルシの木しか知らないので…;;
でも山の自然はすごく豊かなので、ほんとうに楽しみが尽きないと思います。^^(以前、漆のタネを脱ロウした時には、いっぱいロウが出てびっくりしました)

ヤマウルシって…どうなのでしょうね。
ちょっとこわい気もしますが、もしも試されたらどうだったか?教えてくださると嬉しいです。(でも、気をつけてくださいね)

では、またよろしくお願いいたします。^^
Posted by 宮崎佐和子 at 2009年08月24日 01:12
こんばんは。

私の場合は趣味ですが、
将棋の駒作りから木と漆に出会って
今こうして色々と物作りを楽しめているのは
自分では把握出来ないくらい
多くの方のおかげだと、私も感じています。

以前書きました、祖父の鉋のことも
とても大事な経験だったと思いますし
こうしてプロの方に、ブログ等で色々見せて頂けるのも
とてもありがたいことだと思ってます。

また今後もよろしくお願いいたします^^/
Posted by GIL at 2009年08月31日 01:08
GILさん、こんばんは!
コメントを下さいまして、ありがとうございます。^^

文化って、ほんとうに長い歴史と数えきれない人々が織りなしたものだなあ〜と思います。
(以前、是川遺跡や吉見町の出土品を学芸員さんに実際に手に取って見せていただいたことがあるのですが、そんな古代でも人の技は今と変わらない(以前の方がある意味すぐれているかも)んです!びっくりしました)
木と漆は、その大きな財産の中の一部分ですが、ほんとうに興味が尽きないですよね。興味を持たなくても人は生きていけるわけですが、いろいろ追求してしまうのはやはり人間らしさだと思います。

…ふと気づいたんですが、よく考えれば、漆の木も、今の世まで大事に守ってきた人がいたからこそ現存しているわけで… 
(ウルシの木はもう近すぎて、私なんかすっかり『うちの子』みたいに思っていたんですが ;; いろんな方のおかげで、ここにあるんですよね)
う〜ん大事にします。

GILさんも、これに近いような思いを抱いてらっしゃると聞いて、うれしくなりました。
いえいえ、こちらこそ、知らないことをいっぱい教えてくださいね!

今後ともよろしくお願いいたします☆

Posted by 宮崎佐和子 at 2009年09月01日 21:13
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