2010年02月25日

■『漆の実のみのる国』著/藤沢周平

漆の実のみのる国

『熟すれば漆の実は枝先で成長し、いよいよ稔れば木木の実が触れ合って枝頭でからからと音を立てるだろう、そして秋の山野はその音で満たされるだろう』

これは、貧窮する江戸時代中期の米沢藩、その若き藩主(上杉鷹山)と執政たちの人間ドラマ。


人に例えるなら「瀕死の重病人」にひとしいこの貧しい藩に、豊かさを、少しでも人びとにまともな暮らしを、飢えない日々を、と苦心する青年藩主は、起死回生の策を打ち出します。
「漆木百万本、桑木百万本、楮百万本を植栽する」

十五万石の貧しい藩を、実高三十万石に……。
文字通り、命を削るごとくの財政立て直しに、一縷の望みをかける人びとにとって『漆の実のみのる国』とは、わが愛する郷土が息を吹き返し、しあわせな生活がおとずれる象徴でもあったのです。
(作中では、樹液よりも実から採れる「木鑞」を主に当てにして計画が始まります)

その起死回生の計画の末路は…。


漆の実(左写真は漆の熟した実)
本作は、著者の藤沢周平さんが病床で綴った最後の作品で「遺書」とも言える作品だそうです。

いま、私たちは「漆を育てて漆の樹液でものづくりをする」ことで生活をするという、たいへんありがたい仕事をさせていただいていますが…。ふと油断すると、自分たちだけで漆を守り、自分たちだけが漆を理解しているという、不遜な錯覚に陥りそうになってしまいます。
先人たちが苦しみ、励み、苦境に負けず地道な営みを続けていた、その「残滓」が私たちの手元に残されている…。
そう考えると、うまく表現できないのですが、私は先人の累々たる死体を踏みしめて生きているのだなという、なんとも不思議な、そしてうまく表現できないような畏れの気持ちが、鈍化した体の内側から、わき上がってくるようです。

多くの方に手にとっていただきたい一冊です。

posted by 宮崎佐和子 at 15:00| Comment(2) | TrackBack(0) | ■ BOOK
この記事へのコメント
 昔は(江戸時代まで)漆の木が沢山あったのですね、漆の実が取れたら少しいただけませんか、コーヒー豆のようにして飲むと美味しいらしいです。   「昔は間方薬として?」
 また 花は焼酎に漬ける(梅酒のようにする)と身体に良いそうです、花も咲いたらください。
 コップ一杯の水に漆を一滴混ぜて飲むと胃腸に良いらしいのですが 国産の漆でないと飲みたくありません 輸入漆は何を混ぜているのか(硬化剤?)判りませんから!
Posted by 「キー」さん at 2010年02月28日 16:02
「キー」さん 、こんばんは!
コメントを下さいまして、ありがとうございます。^^ 
香川県もずいぶん暖かくなってきましたね♪

漆の実、お安いご用です。
実の付きは年によって当たりはずれがあって、昨年はあんまりたくさん採っていなかったのですが… 今年はがんばって多めに取っておこうかな?


>花は焼酎に漬ける(梅酒のようにする)と身体に良いそうです、花も咲いたらください。


むむっ、こちらは鮮度が大事になってきますね…
いつも五月中旬くらいに花が咲くので、その頃を楽しみにしていただけると幸いです。(私も興味があります〜。^^)


>コップ一杯の水に漆を一滴混ぜて飲むと胃腸に良いらしい


うわ〜 「キー」さん、健啖家ですね!
試してみたことはないのですが… でも、なんだか本当に健康に良さそうな気がしてくるから不思議です。
(実際に韓国では、漆の薬効を期待されていて、ウルシ料理もあるんだとか…)

…と、ここまでくると「キー」さんの漆好きも極まれり、の感があります。さすがお付合いが長いですものね。

これからも、よろしくお願いいたします☆
Posted by 宮崎 佐和子 at 2010年03月01日 20:18
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