2007年06月18日

■日本産漆の生産量の少なさ。

この「和うるし日記」を愛読してくださっている方々、いつもありがとうございます。^^
今までそんな実感がなかったのですが、会場に「ブログ見ているよ」と言って来られる方の多いこと多いこと‥ダッシュ(走り出すさま) ちょっとびっくりしています。

そこで、松本が三越さんの朝礼でお話した「日本産漆の現状」の内容について、ほんのさわりだけ紹介したいと思います。
この「和うるし日記」をごらんになっていると、「ふーん、漆ってこう育ててこう使っているんだ」と素直に納得されると思います。でもしかし!私たちのしていることはかなり異端で、日本産漆の厳しい状況をあらためて知っていただけたらなあ、と思います。

2006/4/5/うるし

以前、林野庁に取材したことがあります。
農林水産省の電子図書館に、特用林産資料が公開されているのですが、ここの102番の中に「生うるし (なまの漆樹液)」の国内生産量(日本産)と輸入量(ほとんど中国産と思われる)、そして消費量のごく最近のデータが記載されています。
それを見ると、年によってゆらぎがありますが、日本産漆の年間生産量は1トン〜1.5トン。中国産漆の輸入量は100トン前後です。
この日本産漆の年間1トン強という生産量はどのくらいなのか、三越さんでお話しする前日に松本と計算してみました。
すると、お椀にして年間に約4万個という結果が出てびっくり。これは1ヵ月に約3000個、そして1日に100個という換算になりました。
松本いわく、「これは上塗りの職人さんが二人いる、中くらいの規模の企業が1年で使う量かなあ」とのこと。
えっ、この日本で漆屋さん1軒分の生産量しか、日本産漆がないの? がく〜(落胆した顔)
これには、私たち二人もあんぐり‥
「少ないなあ」とは、現場を見て思っていたのですが、改めて数値にすると戦慄が走りました。
この数値は、うちの工房で比較的しっかりしたお椀が、1個25グラム漆を使っているのを基準に、日本産漆の量が年間1トンとして計算したもの。多少、分かりやすい数字にしましたが、漆に関係あるお仕事をされているプロの方が、これを聞いてなんとも思わないわけがありません。

かといって、ほとんど中国産と思われる輸入漆もたったの100トンなのですから、中規模企業さんの100軒分の量しか流通していないということになってしまいます。
「中国産漆でも、下地から全部天然漆を使っている漆器は
超高級品」といわれるゆえんが、やっと納得できました‥。


そんな危機的な中で生まれている、日本産漆。
その中で、松本が選り抜いた上質の漆だけを使っている、うちの工房ですが、そんな認識が一般にアナウンスされていないのです。
たまにお客様から「高いわね〜もっと安くしなさいよダッシュ(走り出すさま)と正直な感想を言われたりすると(決して高くはないです、日本産でなくでもしっかり作った良心的な漆器と同じ価格帯です‥)、あまりにも知られていない国産漆がかわいそうで、一生懸命頑張っている漆かきさんに申し訳なくて、ちょっとだけ落ち込んでしまうことがあります。





posted by 宮崎佐和子 at 05:30| Comment(8) | TrackBack(0) | ■ 和うるし(漆)について
この記事へのコメント
いつも興味深く拝見しております。
初めて書き込みいたしますが、今日の書き込みは
切実な現状を感じました。

確かに100:1の輸入・生産量は産業として危機的だと
理解します。
お椀に換算しての国産漆は一日100個分しかないと
いうのもすごいですね。

我が家では5年前に購入したある作家さんの汁碗飯椀
を愛用していますが
中の中までほんものの漆を使っているはずです。
とても長持ちしています。

そこで、素朴な疑問なのですが、
漆器として一番アピールするであろうお椀に
国産漆を半分使い、一日50個作れるとして、
この日本国内でそれをきれいに売買流通するのは
かなり困難なのではないでしょうか。
100:1と一日100個分という漆の生産量は
ある一定の需給バランスの中にあるのではないか
という点。

また、国産漆は中国産に比べて値段が2〜10倍と
聞いたことがあります。
国産漆の増産が叶えば、価格差が縮まって
漆器生産者が国産を使いやすくなるという道筋は
見えそうですか?

それとも、漆かき職人さんの一日の仕事量は変わらないので
職人の頭数を増やして増産するが、人件費の高さもあって、
結局中国産との価格差はそれほど縮まらない可能性が
高いのでしょうか。

和うるし工房さんが使命感を持って、
あえて険しい道を歩んでおられる姿は
とてもすばらしいと思います。
日本産漆への理解を消費者にも生産者にも広めるために、
わずかでも光が見えるといいですね。
Posted by すけじ at 2007年06月18日 09:54
とあるこの辺りでは有名な塗師屋さんを訪ねた時に彼が言っていました。
「蜂蜜を混ぜた漆が流通している」んだそうです。
その時、私はきっと蜂蜜の酵素か何かがよい仕上がりに欠かせないんだろう・・・と、勝手に想像して納得してしまいました。
ところが、どうやらそうではないらしい。
ハッキリ言って[増量剤]らしいのです。もっと質の悪い場合は「水あめ」を使うとか。
こうすれば、かなりの量を安価に増やせますね(?)
唖然!
Posted by 舁だんじり at 2007年06月18日 21:18
宮崎さんUPの時間が深夜2時だったり朝の5時だったり…寝てますか?
そのうえ隊長に拉致されて例の店に連れられたとは…。最終日とはいえ今日はかなりお疲れだったと思います。
阿波番茶って1年前のものなんですよ。
TVで体にいいとか、某歌手が飲んでいたとかで、『無くならないうちに送って欲しい』と頼まれお茶屋さんから郵送しました。
実際、お茶屋さんでも注文の電話が多くびっくりしていましたが、今ではいつも山積み状態で売っています(笑)
しかも、まだあの店にあるってことは…飲んでないってことじゃないかぁ(ーー゛)
もう、がぶ飲みしてって下さいね。

ところで、日本産漆については松本さんの個展で初めて知りました。
徳島に漆が?しかも香川の人が苗から増やそうとしている?…周囲に聞いても徳島産漆を知っている人はいなくて疑問だらけのまま個展会場に行きました。
お椀を手にしたときに、ちょっとした感動でした。漆って違うものなんだと。
一昨年、その時たまたま徳島にいて知った私が思ったこと『東京で個展をして欲しい!』
すぐに実現して本当に嬉しいです。(松本さんマニアまで出現させてしまいましたが(笑))

漆って私はやはり美術品だと思っています。
松本さん宮崎さんの作品は、日常生活の中で心を潤し、癒すことのできる美。
漆職人でもこれだけ日本産漆への情熱を語れる方はそうはいらっしゃらないと思います。
日本産漆が絶えることのないよう、その熱き思いが全国に認識されることを祈っております。
(長くなってすいません)
Posted by SUWA at 2007年06月18日 22:15
すけじさん、はじめまして!
(^_^)
いつもごらん下さって、ありがとうございます☆

今回アップした「日本産漆の生産量の少なさ」は、
日本産漆をとりまくさまざまな問題のうち、「生産量という問題だけ」をピックアップして分かりやすく説明した文章なのです。
(三越さんの勉強会では、ポイントをまとめて総合的なお話をしましたが、あっというまに時間切れに… ^^;)

なので、流通量のみの視点で、現状打破は難しいのが現状です。
「生産量が少ないので、日本産漆が使われない」のではなくって、「誰も日本産漆を買わない・使わないので、生産されない」という意外に知られていない事実があります。
(漆を掻いて生業としたくても、誰も日本産を買わないので生活できず廃業するしかなく、どんどん日本産漆の生産の場が失われていくのです)

それと、日本産漆と中国産漆は「同じ漆樹液でも、工芸的な材料としては別物」だと私たちは思っています。
サラブレットとポニーが同じ馬でも、活躍の場がまったく違うように、漆もそうだなあと使ってみて実感しています。

日本産が使われないのは、コスト面が大きいですがそれ以外の理由もあったりして、一言で説明しきれないものがあります…

>我が家では5年前に購入したある作家さんの汁碗飯椀を愛用していますが

わあ〜〜そうなんですか☆
作り手さんの顔が分かる漆椀っていいですよね。^^
やっぱり使って下さる方が増えて、漆のファンも多くなって日本産も少しずつ増えていく…というのがいいなあ。
なんだか、とりとめがなくなりましたが ^^:
書き込みありがとうございます。
これからも、ヨロシクお願い申し上げます。(^.^)


Posted by 宮崎佐和子 at 2007年06月19日 23:12
舁だんじりさん、いつもありがとうございます!
(^▽^)/

やっぱりお詳しいですね〜〜 (^_^;)
水飴入り中国産漆かあ。学生時代にそれらしきものを(おそらく)私も買ったことがあります。ほんとに水あめみたいににちゃにちゃしてて、溶剤をたっぷり入れないとぜんぜん濾せないんです。
(しかもからむので、道具の掃除がたいへん)

イメージダウンになりかねないのですが、漆は液状なので昔からいろんな「混ぜ物」して増量させて売る、ということがよく行われていました。
だから「水増しするテクニック」がプロの仕事の一つだ…といった価値観の時代も以前はあったそうです。
(今は別の意味で、添加物を混入するのですが)

ほかの素材や食材と同じような暗部が、漆にもいっぱいあります。
なので、せいいっぱい正直なものを作ってお披露目するのが仕事の一つだと思ってます。
Posted by 宮崎佐和子 at 2007年06月19日 23:35
SUWAさん、こんばんは!!
大盛況??のうち無事おわり、やっと四国に戻ってまいりました。^^
なにかと女性らしいお気遣い、ありがとうございます。
(隊長は、搬出を見届けて爽やかに去りました…)
知らない土地で、いろいろかまってくださる人がいるのはとっても嬉しいものなんです、あまり心配しないで下さいね!!

お店では、やっぱり徳島ネタがなにかと多いです。^^; そしてマスターは、私と初対面して緊張のあまり10分の1も実力発揮できなかったとか。(あ、松本はもうお店のメンバーとなってるみたいです)
Nさんの漆スプーンが、お店預かりになっているらしいので、また東京に行かれた時にでも確認してください。

ほんとに不思議なご縁で、愉快な人たちと仲良くさせてもらってありがとうござます。
これからもよろしくお願いしますね☆
Posted by 宮崎佐和子 at 2007年06月19日 23:47
展示会を終えたばかりでお疲れのところ
丁寧なお返事ありがとうございました。

日本産漆は今、悪いスパイラルの中にあるということですね。

でも、なぜ誰も買わないし使いたがらないのでしょう?
それを考え出したら本当に時間がいくらあっても足りないか。。。

宮崎さんがおっしゃるように
日本産漆は中国産とは別物で別格だということは、
他の作家さんたちも、本当は日本産漆を使いたい、
もしくは日本産漆の本当の良さとは何なのか知りたい、
と思っているのかもしれませんね。

漆の品物って、扱い方のちょっとしたことさえわかれば
陶器よりもいいところがいっぱいあります。
私が漆椀、漆スプーンを使わなくなることはまずないと
断言できるでしょうね。

それでは、また。
Posted by すけじ at 2007年06月20日 01:54
すけじさん、こんばんは。^^
お話におつき合いくださってありがとうございます。
今日はやっとのんびりできました〜〜〜。

今晩、松本の師匠の漆かきさんに電話で話をして、ちょっとお話したのですが、ショックなことがあって、が〜ん。
刻一刻と生産現場の輝きが失われていくのは、辛いものです。

>でも、なぜ誰も買わないし使いたがらないのでしょう?

その大きな要因のひとつに、日本産と中国産が、やっぱり素材として別物だからというのがあると思います。コスト面も大きいですが…
また、お客様の日本産の認知度が低いため、使ってもメリットがあまりない、というのもあるかもしれません。
この一言では語れない厳しい状況については少しずつこのブログで紹介していこうと思います。


すけじさんのおっしゃるように、漆は意外と壊れにくいし何より美しく優しいし、とても優れたものなんです。(愛用されている方なら分かりますよね☆)
いろんな方にこのあたたかさを知っていただけたらなあ、と思います。
Posted by 宮崎佐和子 at 2007年06月20日 23:57
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