2008年01月22日

■日本産漆を使う事の「異常さ」。

少し前の話ですが、ショック…というよりちょっと驚いたことがあったので、ここにまとめてみたいなあと思います。

お世話になっている、とある漆作家の先生とお話する機会がありました。この方は、漆芸家には珍しく日本産漆の関心が高い方で(漆をされている人なら誰でも日本産漆を使いたいと思っているわけではないのです)私たちの活動にも理解のある方なのですが…。

しばらく世間話をしていて、使っている漆の話になった時、その方が何げなく
「君のところでも、中塗りくらいは中国産漆を使っているんだろう?」とおっしゃったのです。ええ?がく〜(落胆した顔) と一瞬耳を疑いましたが(先生、ごめんなさい…)
「なにおっしゃるんですか〜、うちは木地固めから上塗りまで日本産漆だけしか使ってませんよ」と即座にお答えしたら「そうか」と言って下さいました。
たったこれだけの出来ごとで、そうたいした話ではないのですが…。あせあせ(飛び散る汗)
松本と私は、ちょっと「う〜ん」と考えさせられました。

漆の木を育てて漆かきもし、そして日本各地の最高だと思う漆を使って日本産漆のみで仕事をしている、ということを掲げて工房を立ち上げ、その通りのことをなんとか続けているのですが、こういったコンセプトを一般の方は「こういった時代だものねえ」「かぶれそうだけど面白いじゃない」とか、わりとすんなり理解して下さいます。

しかし…どうも同じ漆をされる方には、そうはいかない話みたいです。

その先生も決して知り合ったばかりの方というわけではなく、10年とは言わないくらいのお付合いがないわけでもないのですが、やっぱり
「最初から最後まで、オール日本産漆でものをつくっている」
…ということは、いろんな意味でどうも常識を超えていることらしいのです。
って「らしいのです」と書きましたが、私ももとはその世界で勉強させていただいた身。「常識を超えている」っていうことの感覚を何となく思い出すことができます。(いい材料いい道具に比較的恵まれた塗師の家でいた松本には全然分からないみたいですが)

まずは「価格的にありえないだろう」ということ。

作業工程がたくさんある漆芸作品は、制作に手間ひまかかってそれだけでも大変です。そして、がんばっても飛ぶように売れるものでもないのです。そんな中、流通価格が中国産漆の数倍から十倍はする日本産漆は、個人の作家さんなら上塗り用に1キロ買うだけでもけっこう勇気がいるものです。

そして「日本産漆だけではものが作れないだろう」ということ。

漆を使う作業は、デリケートなものです。
ひと仕事したものが、なかなか乾かない、ということは次の仕事に移れず大変難儀してしまいます。
また「以前塗り上がったものと全然塗りの雰囲気が違ってしまう」というのも困りものです。
でも、これは、工房で使っている思いっきりの「山出し」の日本漆では当たり前のこと。
しかも扱いの勝手が、ふつうの漆とはかなり違うと思います。

なのでどうしても高価すぎない漆、扱いやすい漆、確実に早く乾く漆、ということで、漆屋さんの用途別に調合した漆から完全に離れて仕事をする…ということはリスクが高すぎで、ふつうの感覚では「そこまでしなくても」と、非現実的なことなのかもしれません。


そういえば、私たちが国産漆だけで仕事をしている、ということを信じていなかった方が他にもいらっしゃいました。
とある長らく親しくさせていただいている漆かきさんなのですが(私も研究生時代には、漆かきや漆の木を見せてもらってとても勉強させていただき、工房を作った時も応援の言葉を下さった)先日、久しぶりにお会いして世間話をしている時に
「そう言えば、あんたのところは、どのくらい中国産使っているのかな?」と当たり前のようにおっしゃったのでした。
これには、私もがっくり…。
ずっとお付合いしていて、いろんな話をして、もちろん私たちがどんな気持ちでこの仕事をしているかご存知のはずなのに…。
本当に体の力が抜けてしまいました。


誤解しないでいただきたいのですが、先生や漆かきさんのことを私たちが「ひどい〜!」と思っているわけでないことをご理解くださいませ…。(お世話になっている大事な方なのです)
逆に「さすがに少しは日本産じゃない漆を使っているんだろう」と思っていらしたことを、正直に言ってくださってありがたいことでした。
その先生や漆かきさんの何げない言葉のおかげで、忘れかけていた漆にたいする先入観をふっと思い出し、「日本産漆を使うことって、今の日本では異常なんだ…」と身近なことで気づかされたのでした。

日本産漆の窮困は、こうしたことも一つの要因かもしれません。

…となんだか湿っぽくなりましたがあせあせ(飛び散る汗)
そんなことも考えつつ日本産漆の現状打破に、微力ではあるけれど地道にがんばっていこうと思います。


posted by 宮崎佐和子 at 21:25| Comment(12) | TrackBack(0) |   思うこと
この記事へのコメント
中国産漆を使っているのが当たり前の事になっている日本自体が悲しい事ですね。
今日本は安くて簡単にできる物「便利な物」な物ばかりを追い求めて本当に「良い物」を忘れていますよね。
私も昔は「なんでもいい」と言う性格でしたがこの年になって(といっても30過ぎですが)本当に良い物を扱う事はこんなに気持ち良い事なんだと気づかされました。
SUGAさんで買ったこちらのフリーカップもできることなら死ぬまで使って行きたい気持ちです。
これからも、一人でも「良い物」に気づく人が増えるようがんばってください!!
Posted by yasan at 2008年01月22日 22:31
yasanさん、こんばんは。^^
さっそくコメントを下さいましてありがとうございます。

私も何も分からない昔は、なんでもいいって思ってました。^^: (まず、いいものじたいが良くわからなかった)
でも、やっぱり関心を持つとだんだん意識が変わってきました。

>中国産漆を使っているのが当たり前の事になっている

いえいえ、びっくりしないでください、今はウレタンが当たり前で、漆を使っているものじたいが少ないんです。
なので、そのカップもかなり珍しいものとなります。笑 (私たちが生きているかぎり?修繕はします…ずっと使ってくださるとうれしいです)

yasanさんみたいな方をがっかりさせないよう、これからもがんばっていきますね。
どうぞよろしくお願いします。^^
Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月22日 22:53
某百貨店の○○展で木のお玉造ってる人がうちは手作りで国産漆塗ってますって言ってたっけど、なんか怪しそうな感じでした。

そのような輩と一緒に見られたくないですよね!!!!!!!!というと言葉は悪いですが、この業界ではうそつきが多いって事がすごくマイナスになってますよね。

私は業界の人間ではないですが、危惧しています。。。
Posted by 黒柿 at 2008年01月23日 22:02
黒掻きさん、こんばんは。^^

>某百貨店の○○展で木のお玉造ってる人がうちは手作りで国産漆塗ってますって言ってたっけど、なんか怪しそうな感じでした。

わあ〜〜(´▽`:)
ほんと怪しそうですねえ。笑 つっこみどころがたくさんありそうです。

>この業界ではうそつきが多いって事がすごくマイナスになってますよね。

いやいや漆の世界に限ったことではないかもしれませんが… 
なんとかしてものを売らなければやっていけないとどなたも必死なのでしょう。でも、一時しのぎの方便が漆の世界をどんどん疲弊させて、結局自分の首を絞めていることは間違いないと思います。

こんな問題は、どの分野でもやっぱり根っこで同じようにつながっていますよね…。^_^;



Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月24日 00:10
今更ながらうなってしまう話です。
おふたりが、されていることが、大変な
事がよくわかるお話ですね。
ちなみに、輪島のとある方は、おふたりの
お話ししたら、ご自身は、下塗りには、中国産を
使われてるとおっしゃられていました。
Posted by sun at 2008年01月25日 12:36
sunさん、はじめまして。(ですよね)^^
コメントを下さいまして、ありがとうございます〜!

この手の話は、難しくて、何度も見直しながら悩みながら書いています。
一応いろんな立場の方がごらんになる可能性を考えてますが、特に漆のことをあまり知らない方のことに一番重点を置いています…(これを読んで考えが違って怒っている?方もたくさんおいでる…かも?)
でも、私たちからの視点ですが、今の日本産漆の現状を書いていくことが大事なあと最近強く思っています。

>ちなみに、輪島のとある方は、おふたりの
お話ししたら、ご自身は、下塗りには、中国産を
使われてるとおっしゃられていました。

輪島のどなたか存じ上げませんが、きちんと正しい仕事をされている方なのですね。^^

作家さんの方はあまり詳しく知らないのですが…職人さんのお仕事に関しては、輪島は日本最大の日本産漆の消費地です。
毎年秋に行われる、浄法寺の漆共進会に来られている輪島の漆器屋さんがいて、松本が知っている限りですが一番多い年は10本の漆(5貫樽を10本→約187キロ)もの漆を買われたそうです。
のち、松本が輪島に行った時にその漆器屋さんに「あの浄法寺で買われた漆を塗った器はどれですか?」と聞いたところ、ちょっと難しそうな顔をされたものの、自信をこめて「うちで作っている一般の漆器の上塗りに2割、上物の漆器の上塗りに3割入れて塗っているんですよ」と正直に教えて下さったそうです。

この漆器屋さんは、当時日本で一番日本産漆を使われていると思われてるところです。
…ということは、それだけ国内で日本産漆が使われていないということでもあり、そしてその漆器屋さんにとって、自社の器の上塗りにそれだけの日本産漆を混ぜられるという誇り、プライドを持った物作りをしているという意気込みをひしひしと感じました。

国産外国産問わず天然漆を下地から上塗りまで使っているだけでもたいへんな高級漆器になります。
なので、まして日本産漆そのものの漆器なんて、一般の方たちはまずごらんになることはないでしょう。
いろいろ歴史背景があるのですが、これが当たり前になってしまって、誰も日本産漆に見向きもせず、世間から忘れ去られて日本各地にあった漆樹液産地は荒廃してしまいました。
でも、こんなすごい財産を日本は持っているのに消えるにまかせてしまうのは、なんとも惜しいことです。
とは言っても、日本中の漆器に日本産漆がしっかり使われる…ということは量的にもありえないお話になってしまいますが、もう少しだけでも使う企業や人が増えると、ちょっと漆の苗を植えておこうかとか、漆かきの仕事を辞めずに続けようか、という人が増えて、文化の基盤ももう少し厚くなると思います。

…っと気づくとすごい長文になってますね…(;゜゜)
sunさんのように、少しでも漆に関心を持って下さる方が増えるととてもうれしいし、勇気づけられます。^^
今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月25日 22:22
「本流を歩きなさい。支流を歩くものはいずれ消えてなくなる。」
竹柳堂さんでの展示会、お疲れ様でした。
店主との会話は大変有意義なものだったと思います。
「今の若い人達は勘違いしている」そう言われましたが私のような愚物には今もってその真意を測りかねずにいます。
怖かった。明治期の著名な先達の白描画を観せられた時、「お前みたいな者がのこのこ入ってこれる所ではないのだよ」と言われている様な
まるで剃刀で何度も斬られている気分でした。

先日BS放送で漆刷毛師の番組を見ましたが当代の息子さんの言葉に励まされる思いがしました。

「ウソついたらあかん」私も極々微力ながら日本産漆に喜んで貰えるような仕事をしていきたいと思っています。
Posted by いちご納豆 at 2008年01月26日 22:46
いちご納豆さん、こんばんは。
いつも見て下さって、ありがとうございます。^^

>竹柳堂さんでの展示会、お疲れ様でした。

いえいえどういたしまして…。
いちご納豆さんも、竹柳堂さんにお世話になったことがおありなのですね。

>店主との会話は大変有意義なものだったと思います。

はい…そうです。とてもいい勉強になりましたよ。
それを聞くために東京まで行ったようなものです。^^:

私も「竹柳堂さんは大変厳しい」と事前にお聞きしていましたので、すごく緊張していましたよー。(すごい肩凝りで湿布欠かせず…)
実際、作品に関しては容赦なく厳しくて、最初は正直ちょっと凹んだかも…です。(文句のつけようのない作品の作家さんにも容赦なしです。竹柳堂さんが作品に100%満足することは決してないのではないでしょうか)
でも、愛のある厳しさで、プロの美術の人間としてのアドバイス、そして作家さん自身の可能性もちゃんと見いだしてそれに役立つような優作を見せるというような、まっとうなプロとしての姿勢を見せて下さいました。
なので、言葉はきつかったかもしれませんが、いちご納豆さんにも期待していろいろ言って下さったことと思いますよ。

この仕事は、ほんとうに死ぬまで勉強ですね。^^
ここでいただいたアドバイスで、自分のやっていくことの視界がさっと開けたので、新しいものを作って竹柳堂さんに(怖いけど)見ていただくつもりです。
どこまで応えられるか分かりませんが、一生懸命やろうと思っています。




Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月26日 23:54
メールお送りしてますのでお読み下さい。
Posted by sun at 2008年01月27日 18:02
sunさん、こんばんは。^^
メールをありがとうございました!

sunさんが顔見知りの方と知って…びっくりしましたが、うれしかったです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月27日 19:49
こちらこそよろしくお願い致します。
Posted by sun at 2008年01月27日 20:47
こちらこそ。^^
Posted by 宮崎佐和子 at 2008年01月28日 23:49
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