4/16に仕事で使い、ご紹介した「枝漆」。これはその「枝漆」の採取の様子です。(岩手県浄法寺町の漆かき職人 大森俊三氏)

かなり珍しいうるしなのですが、珍しいというより“過去の漆”と言ったほうがいいのかもしれません。(もう40年前から採られなくなったというのですから。) ふつう、漆はウルシの木の幹から採取します。この「枝うるし」は名前の通り“枝”から特殊な方法で採るうるしです。
かつて下地用として重宝された漆ですが、国産漆おろか中国産漆でさえ使われなくなりつつあるこの世界、うるし掻きさんも商売にならないので採らなくなってしまいました。
この枝漆かきの作業をごく簡便に説明すると‥
(1) 一般の漆かき作業が終わった11〜12月頃、うるしを採り終えた木の枝を切る。
(2) 約20日間ほど水(川辺等)に枝を浸して、水分を枝に吸わせておく。

※初冬の岩手県… 雪が積もっています。
(3) 暖かくし梅雨時の気候を再現した作業部屋を用意する。
(4) 作業部屋で枝に約15センチ間隔で傷を付ける。
(5) ゆっくりにじみ出て来た漆を専用のへらでかき採る。

2001年、大森さんが40年ぶりに枝漆を採る(日本うるし掻き技術保存会で資料作りのため)…というので、松本和明が「これはぜひ行かなくては」と岩手へ飛びました。(松本は大森さんの弟子で保存会の準会員)そして枝うるしの採取をリアルで学んだわけですが…。
※岩手日報
上記の写真は松本が撮影したので本人は写っていません。しかしニュース映像で見ると、雪の浮かぶ極寒の池に浸かって枝をどんどん運んだり、大量の枝を運び込んだ作業小屋にこもって延々と枝に傷を付けたり、観ているだけで寒がりで体力のない私はため息が出ます。(^^;
しかも、出てくる漆はほんのちょっとなのです。(私は盛りから遅“真夏〜秋”の、幹から充実した漆をどばっと出す時期を主に見るので特にそう感じる) 少しの漆でもたくさんの枝を集めればかなりの量を溜めることができますが。でも、山などにある作業の終わった(今ではすぐ切り倒してしまう)木から枝を切り集め、運び出し、束ね、水に漬けこみ20日間… そうとうな重労働です。しかも、一般的に枝漆は辺漆(幹から採ったうるし)ほど高くは売れません。
漆がとても貴重だったころ、「一滴でも残さず採りたい」という思いが、枝漆かきの技術を生んだのでしょうか。
補足ですが、手に入れた枝漆を分析にかけています。
その結果を公表します。
=== 分析結果 ===
枝漆(生うるしの状態)
ウルシオール 63,21%
水分 30,05%
ゴム質 4,75%
含窒素 1,98%
=================
生うるし(荒味)の状態/6,65キロ
→濾し上げ後/5,95キロ
(作業時に入る木の皮等のごみが約11%)
枝漆(生うるしの状態)
ウルシオール 63,21%
水分 30,05%
ゴム質 4,75%
含窒素 1,98%
=================
生うるし(荒味)の状態/6,65キロ
→濾し上げ後/5,95キロ
(作業時に入る木の皮等のごみが約11%)
こうして数値にすると、説得力があります。(^^)
でも私は、二世代も違う人間が「いい漆を採ろう」と寒さの中集ってもくもくと作業する様子、リズミカルに枝に傷を付けるシュッシュッという音、タカッポにどんどん落とされる漆、そんな風景はどんな科学分析よりも代えがたいと思っています。
そして漆の木が命の尽きる直前に残したこの漆を、存分に使うことのできるありがたさを絶対に忘れないでおこうと思うのです。