もうすでに販売済みとなってしまいましたが…

思い出のあるものだったので、今日はご紹介したいなあと思います。


ケヤキ材のお椀なんです。炭黒漆で仕掛けて朱漆を重ね塗りをして少し研ぎ出して仕掛けをし、溜にしています。
ケヤキの木目も景色の一つとなり、たいへん面白い雰囲気になりました。
そして

このお椀の面白いところは、なんと言っても上塗り漆の表情です。
シャラシャラした、超ドライな塗り肌は、いっけん「漆器」とは思えないもの。
これは、名人・大森俊三さんの採取した、2005年岩手県産の裏目生うるしを、なまのままで上塗りしてあらわれた表情なんです。
さて、裏目漆とは…?
漆かきの時期は、初夏〜秋(地方や流儀によって微妙に時期は異なります)ですが、おおまかに分けて、初夏の漆を「初漆(はつうるし)」、真夏の漆を「盛漆(さかりうるし)」、秋の漆を「遅漆(おそうるし)」と言います。(呼び名は地域でやや異なります)
ウルシの木の幹から採取する、最後の漆が「裏目」と呼ばれ、辺漆(初辺・盛辺・末辺)とは区別されています。
読んで字のごとく、今まで傷を入れていない幹の裏側に幹を一周する傷をつけて採る漆です。メインの辺漆さえ需要の落ちたこのご時世、この「裏目漆」を掻く漆かきさんはほとんどいなくなりました。
本来、裏目漆は、盛漆より品質が落ちるとされます。
が、大森俊三さんの裏目は、盛漆にひけをとらない、高品質の漆なんです。
しかも、たいへん個性的な表情を出すことが多く、当時松本も夢中になりました。



ううむ… ほんとうに漆とは思えない雰囲気ですね。
当時の売場では「なんじゃこりゃ〜?」言われ、たいへん不評でした…

さてさて、おまけのお話なんですが…。
この2005年産の裏目は、成分分析に出してデータをとっていました。※
なんと、ウルシオールがほぼ7割の69,38%、水分は21,7%というビックリの高品質。盛漆に迫る好成績の漆なんです。
オリンピックではありませんが、初老の男性選手が、今が盛りの壮年選手と記録を競り合う?ような感じです。
しかも、たいへんこなれた演技をするんですね…。
さらに、手を加えていない(精製をしていない)生うるしで、見応えのあるテクスチャーを纏える力のありましたので、より原始に近い生命力あふれる姿になったのかもしれませんね。

さて、今日のおまけ写真は…
微妙な距離感のむぎ君とうり坊です。こんな距離だけど、実は仲が良い…と思いたい。
