2006年08月15日

■裏目うるしについて。

8/5に丸重箱の木地固めに使った「裏目漆」。
漆かきの時期は、初夏〜秋(地方や流儀によって微妙に時期は異なる)ですが、おおまかに分けて、初夏の漆を「初漆(はつうるし)」真夏の漆を「盛漆(さかりうるし)」秋の漆を「遅漆(おそうるし)」と言います。(呼び名は地域でやや異なります)

この木の幹から採取する、最後の漆が「裏目」と呼ばれ、辺漆(初辺・盛辺・末辺)とは区別されています。
読んで字のごとく、今まで傷を入れていない幹の裏側に幹を一周する傷をつけて採る漆のこと。辺漆を採り終わったあとに採取する漆です。メインの辺漆さえ需要の落ちたこのご時世、この「裏目漆」を掻く漆かきさんはほとんどいなくなりました。


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裏目うるし採取の様子。(木の下方)


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はしごをかけて届く所まで傷をつける。


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はしごの上をよじ登り、
さらに上方に傷をつけて裏目うるしを採る。

※写真3点とも/岩手県浄法寺町、大森俊三氏、10月末撮影。 



「裏目漆」は、木を切り倒す前にまだ幹の中に残っている漆樹液を採ったもの。漆がたいへん貴重だった時代、資源をむだなく使おうという視点からとられていた漆です。
品質は辺漆よりは落ちますが、下地や仕掛けなどの裏方で活躍する漆なのです。(非常に肉持ちがよくて縮みにくい漆です)
とはいうものの、工房でいま使っている「裏目漆」はなかなかのもの。以前紹介したほかの漆同様、成分分析をしていますが、データでみると高品質とされる辺漆と比べて、そんなに大差ないのです。


=== 分析結果 ===
裏目漆(生うるしの状態)
ウルシオール 69,38%
水分     21,70%
ゴム質     7,48%
含窒素     1,44%
=================



前回紹介した、いちばん充実している盛漆がウルシオール約80%。こうしてみると裏方的な「裏目漆」ですが、10%くらいしか違いはありません。
驚くのは水分が21%しかないこと。(半分近く“水”なのが、ごく一般的な裏目漆だったりします)

でも、こんなにいい状態の「裏目うるし」なのは、きちんとした生産計画のもとに高度な技術で、半年の期間をかけて“木をつくった”結果です。
よく誤解されるのですが、残念ながら「日本産の木でありさえすればどんな採り方をしても高品質のうるしが採れる」ということではないのです。

この“木をつくる”技術、個々の木を見つつたいへんな緻密さで計画を立て、最初の傷つけから最後まで「こんな状態の漆を出したい」という信念のもとから培われたもの。漆をみれば、漆を採った人のレベル、いわゆる至高の高さが分かります。
門前の小僧…じゃないけど、10年近くいろいろな漆を見てきて、この私さえも見て、ある程度は漆の品質を感じとるようになりました。(あくまでもある程度、ですが (^^;)

色や透明度、粘りや香りが違う、といったものもそうですが、やはりなんと言うか「品」が違うのです。
「貪欲に最高の品質のものを目指す」という日本的な感性、今の時代もっと大事にしてほしいなあ…と思います。

(ホントにいま使っている裏目漆、裏方さんにするのはもったいないような漆です)ムード
posted by 宮崎佐和子 at 17:14| Comment(14) | TrackBack(0) | ■ 和うるし(漆)について

2006年05月17日

■“盛り漆”について 1


真夏の葉っぱ

4/25に紹介し仕事で使った「盛漆(さかりうるし)」。漆かきの時期は、初夏〜秋(地方や流儀によって微妙に時期は異なる)ですが、おおまかに分けて、初夏の漆を「初漆(はつうるし)」真夏の漆を「盛漆(さかりうるし)」秋の漆を「遅漆(おそうるし)」と言います。(呼び名は地域でやや異なりますが)
一般的には、時期によってそれぞれ特長の違う漆が採れるように木を作ります。
この中でもっとも高品質とされるのがこの“盛り漆”なのです。(一般的に“高品質の漆”とは、ウルシオールが多く水分が少なく硬化後の塗膜が非常に美しい樹液のことを差す。こういった漆は、最も強度に優れ、乾きが遅い。)

ではなぜ、真夏に一番いいうるしが採れるのか?

ちょっとイメージを膨らませて下さい‥ たくさんの太陽の光、高い気温、適度に絞り込まれた水。夏は一年の中で、木が大きく伸び、元気な葉を付け、いっぱい光合成をする時期です。“うるし”は木の樹液。この季節にいちばん内容の濃い漆樹液が、ウルシノキの中で作られる条件が揃うのです。
8月の漆掻き
真夏のうるしの木でのうるし掻きの様子。
(岩手県浄法寺町、大森俊三氏、8月撮影) 
木の幹に逆三角形に重ねられた、掻き傷が見えるでしょうか?


ところで今年手に入れた、最高の盛り漆がこれです。
4/25/漆漉し作業

“盛り”の時に採ったうるしだから、必ず高品質とは限りません。自ら漆かきをし、自分で使う松本が「これぞ」という漆を指定して手に入れます。
この漆の分析結果もありますので、ごらん下さい。

=== 分析結果 ===
盛り漆(生うるしの状態)
ウルシオール 80,79%
水分     13,42%
ゴム質     4,81%
含窒素     0,97%
=================

先日、紹介した“枝漆”がウルシオール63%、水分30%でしたからその差は歴然としています。(採取した人は同じ大森氏です) 

5/17/盛り漆と枝漆の椀
このブログのカテゴリ「工房の仕事」で紹介した、作業中の器の写真です。形はぜんぜん違いますが、同じトチ材で、作業も同じ木地固め1回。使った漆以外は、同じ状態のものです。

まず「色がずいぶん違う」と、お思いになりませんか?
奥の黒に近い色の器が“枝漆”、手前の明るい色の器が“盛り漆”をそれぞれ木地固めに使ったものです。こうした明るく透ける漆はたいへん貴重で、高品質を示す特長の一つでもあるのです。

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posted by 宮崎佐和子 at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ■ 和うるし(漆)について

2006年04月22日

■枝漆について。


4/16に仕事で使い、ご紹介した「枝漆」。これはその「枝漆」の採取の様子です。(岩手県浄法寺町の漆かき職人 大森俊三氏)
大森俊三氏枝漆掻き

かなり珍しいうるしなのですが、珍しいというより“過去の漆”と言ったほうがいいのかもしれません。(もう40年前から採られなくなったというのですから。) ふつう、漆はウルシの木の幹から採取します。この「枝うるし」は名前の通り“枝”から特殊な方法で採るうるしです。
かつて下地用として重宝された漆ですが、国産漆おろか中国産漆でさえ使われなくなりつつあるこの世界、うるし掻きさんも商売にならないので採らなくなってしまいました。

この枝漆かきの作業をごく簡便に説明すると‥

(1) 一般の漆かき作業が終わった11〜12月頃、うるしを採り終えた木の枝を切る。
(2) 約20日間ほど水(川辺等)に枝を浸して、水分を枝に吸わせておく。
水に浸けた漆の枝
※初冬の岩手県… 雪が積もっています。

(3) 暖かくし梅雨時の気候を再現した作業部屋を用意する。
(4) 作業部屋で枝に約15センチ間隔で傷を付ける。
(5) ゆっくりにじみ出て来た漆を専用のへらでかき採る。
枝漆掻き作業アップ


2001年、大森さんが40年ぶりに枝漆を採る(日本うるし掻き技術保存会で資料作りのため)…というので、松本和明が「これはぜひ行かなくては」と岩手へ飛びました。(松本は大森さんの弟子で保存会の準会員)そして枝うるしの採取をリアルで学んだわけですが…。
※岩手日報

上記の写真は松本が撮影したので本人は写っていません。しかしニュース映像で見ると、雪の浮かぶ極寒の池に浸かって枝をどんどん運んだり、大量の枝を運び込んだ作業小屋にこもって延々と枝に傷を付けたり、観ているだけで寒がりで体力のない私はため息が出ます。(^^;
しかも、出てくる漆はほんのちょっとなのです。(私は盛りから遅“真夏〜秋”の、幹から充実した漆をどばっと出す時期を主に見るので特にそう感じる) 少しの漆でもたくさんの枝を集めればかなりの量を溜めることができますが。でも、山などにある作業の終わった(今ではすぐ切り倒してしまう)木から枝を切り集め、運び出し、束ね、水に漬けこみ20日間… そうとうな重労働です。しかも、一般的に枝漆は辺漆(幹から採ったうるし)ほど高くは売れません。
漆がとても貴重だったころ、「一滴でも残さず採りたい」という思いが、枝漆かきの技術を生んだのでしょうか。

補足ですが、手に入れた枝漆を分析にかけています。
その結果を公表します。

=== 分析結果 ===
枝漆(生うるしの状態)
ウルシオール 63,21%
水分     30,05%
ゴム質     4,75%
含窒素     1,98%
=================
生うるし(荒味)の状態/6,65キロ 
→濾し上げ後/5,95キロ
(作業時に入る木の皮等のごみが約11%)

こうして数値にすると、説得力があります。(^^)
でも私は、二世代も違う人間が「いい漆を採ろう」と寒さの中集ってもくもくと作業する様子、リズミカルに枝に傷を付けるシュッシュッという音、タカッポにどんどん落とされる漆、そんな風景はどんな科学分析よりも代えがたいと思っています。
そして漆の木が命の尽きる直前に残したこの漆を、存分に使うことのできるありがたさを絶対に忘れないでおこうと思うのです。

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posted by 宮崎佐和子 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ■ 和うるし(漆)について
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