2009年03月19日

■環境の違うウルシの比較。

素材って大事です。
当たり前なんですが、やっぱり「漆芸」には、漆が欠かせません。
でもこの「漆」というものはたいへんデリケートな素材でして… ウルシノキ由来の天然の植物樹脂なのですが、その時々の状態によって、立場や位置づけもめまぐるしく変わります。
木から生まれるので、樹液を生産した時は特用林産物ですし、流通する時は塗料としてあつかわれるでしょう。塗って仕上がると工芸品になったります。

そう考えると、とても不思議なものですね exclamation

さて、工房ではその「素材としての漆」を追求しているので、漆の木の育成はだいじな仕事の一つです。
先日、3年越しの苗(徳島産)をやっとに移植したところ。(その時の記事)
実は、その移植した苗を何本か工房に持ち帰っているんですよ。


バッド(下向き矢印)これが、田んぼで3年間育った徳島産の漆苗です。
3/18漆の芽1
この子たちはあまりにも大きくなりすぎて…。あせあせ(飛び散る汗)
ちゃんとひげ根が生えるまで、工房で毎日めんどうを見ることにしました。(ひげ根がなくって太い根っこしかないままで移植すると枯れてしまいます)
で、はるばる高松市から善通寺市に運ばれてきたこの木たちにも、ちゃんと春が訪れています。^^

     バッド(下向き矢印)少し芽がふくらみかけた状態です。
3/18漆の芽2
3/15高松市の苗畑2
肥えた田んぼで育ったので、
こんなに太っているんですよ。


そうそう、この田んぼで大きくした徳島産の漆の苗木ですが、いつもこの日記でご紹介している、工房の庭の漆の木と同じ株なんですよ。
もう少し詳しく言うと、同じ木の根っこから派生した兄弟で、遺伝子も同じです。(徳島には現地の漆かきさんが気に入って残している木があるのです)
岩手の漆の木とは、品種が違うようです。
工房では、地元産の漆の木を増やしています。

で、この「兄弟」と思われる工房の漆の木たちですが、育っている環境が違うので漆の芽の様子がぜんぜん違っています。

バッド(下向き矢印)工房の庭で育った漆の木のほう。
3/17  ウルシの新芽4
細くてあっさりしています。

上の栄養たっぷり田んぼ育ちのほうは、頭がすごくでっかくコテコテに太って芽も大きくむぎゅむぎゅ〜っとしているんですが…。
やせた庭土育ちの工房の庭のほうは、すらーっとして芽の数もまばらです。
別々に生えているので、二つ並べられないのが残念です。;;

左が田んぼ育ち、右がやせた庭土育ちです。
3/18漆の木33/18漆の木3
兄弟の命運?はこんなに分かれるものですね…。

左のほうは、今年の秋頃に五色台の漆畑に移植して、将来うるしを採られるために大きくなります。こんな幼いのにムッチリした姿を見ると、将来いい漆がたっぷり出そうで期待してしまいます。ぴかぴか(新しい)


ちなみに…。
こちらは、浄法寺産の漆の木(実生)です。
3/18漆の木
どことなく、また顔つきが違うでしょ?
工房で種から育てた、思い入れのある木です。ムード


posted by 宮崎佐和子 at 22:00| Comment(0) | TrackBack(1) |   阿波うるしについて

2008年07月19日

■阿波うるしの楽しい思い出。

先日、 阿波うるしの悲しい思い出 を書きました。
(2001年に松本が徳島県三好市山城町で漆掻きをして手に入れたマニアックな『阿波うるし』※こんな漆でしたが、地元ではあまり評価?されず落ち込んだお話でした)
でも、もちろんそんな思い出ばかりではないですよ。
嬉しかったこともいっぱいありましたexclamation

一番嬉しかったことは…。
やっぱり、徳島の方が喜んでくださったことでしょうか。

仕事を始めたのは地元の香川県でした。
でも、徳島で貴重な四国の漆を手に入れた…ということで、はじめての県外に出て行った作品展の場所は、徳島でした。
「徳島の漆をみてください!」
…と私たちも熱い思いで、行ったんですね。

7/18阿波うるし展DM
なつかしい同時のDM。うつわの作品展なのに、
写真が樹液というちょっと冒険したものでした。


そんなふうに徳島では、小さいけど素敵なギャラリーさんでお世話になりました。^^
四国放送さんや徳島新聞さんなどが、ご紹介してくださったこともあって、いろんな方が遠くから見に来られ、展示した作品たちは、阿波うるしと浄法寺うるしの両方を使っていたのですが、とても楽しんで下さったようです。
また、「地元の徳島に、こんな素敵なうるしがあることを知らなかったわ、ありがとう」と嬉しいお言葉をいろんな方に言ってくださいました。ムード

それから何度か徳島で作品展をしたのですが、とても楽しみにしていただいて、会場に入るなり「どれが、徳島のうるしを塗っているものかしら?」とおたずねになって、いとおしそうにごらんになって買われたり…というお客様の姿もよく見ました。
そんな様子を見て「ああ、ふるさとの素材って大事なんだな」とつくづく思ったものです…。

私たちもその頃には、少し漆の「見せ方」に慣れてきて、こんな素材そのまんまの出し方ではなく、うつわとして多少は楽しい塗りを工夫してお見せするようになってきました。

ほんとうにいろんなことを勉強させてもらった漆でしたよ。
これもほんの数年前のことなのですが…
この頃のことを思い出すと、すごく前のことのような、逆につい最近のことのような、不思議な気分になります。

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posted by 宮崎佐和子 at 20:31| Comment(2) | TrackBack(0) |   阿波うるしについて

2008年07月16日

■「阿波うるし」の悲しい思い出。

先日、紹介した浄法寺うるしのお椀と阿波うるしのお椀ですが…。
この松本が自前で採った阿波うるしには『ほろ苦い思い出』がいっぱい詰まっています。

徳島県にうるし掻きに行ったのは、2001年。
松本が研修から戻った翌年でもあり、そして工房を立ち上げた年でもありました。
(阿波うるし掻きの時は、原木の手配を徳島の漆掻きさんの東さんにお世話してもらったのですが、その後木の手だてが難しくなって、一度きりだけです)
浄法寺の漆と、徳島の漆。
おもにこの産地の漆で、日本産うるしだけの工房「和うるし工房あい」の仕事を立ち上げたのですが、初期は地元の香川県を中心に活動していました。当時は工房にお客様が付いていなくて、とても生活は厳しかったです。
地盤がない、ということですね。

地元の方は応援して下さいましたが、香川県は漆のうつわは贈答品でいただいたりもらったりする、という傾向が強くて、こうした嗜好性のつよい高額なお椀などをご自分で選んで買う・使うという文化はあまり育っていないように感じます。

7/16当時の会場
初期の頃の高松での会場。(懐かしい…)


当然、日本産うるしだけのものは全く認知度はなく(ものが豊富な都会でさえそうですから)数千から数万する高額なうつわ(といっても実はすごく破格だったのですが)を、次々と買って下さるにも限界があったと思います。
その中でも、阿波うるしのお椀すこぶる不評でして…。
「ぴかぴかして嘘っぽい」「なんかニスみたい」とさんざんでした。もうやだ〜(悲しい顔)
(ごくたまには阿波うるしのタモのぐいのみをさっと見つけて買って行かれた粋な方もいましたが)
落ち込んだあまり、この美しい阿波うるしのお椀を、黒漆で塗りつぶし、お客様に好まれやすい黒い椀にして二束三文で売っていたこともありました。
いま、思うとほんとうに漆に申し訳ないことをしたなあ…と心がチクリとするのですが、工房にも漆にも全く知名度がなかったので仕方ありません。ここまで来る一つの過程だったと思うようにしています。
(ここまで書いてふと思い出しましたが、同じものをごらんになった都会の漆専門のギャラリーオーナーさんも、当時の地元のお客様と同じようなことを言われていました。『漆の椀は黒っぽくてしっとりしているもの←その多くは中国産漆のものだったりするのですが』という固定概念も関係しているのかもしれません)
もう、この松本の採った阿波うるしは使い切ってなくなっています。


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都会の百貨店さんで展示会ができるようになったのは、ごく最近です。それまでは、小さなギャラリーさんや商店街の貸し画廊さんでお世話になってなんとか続けてきましたが…。
面白いものですね。
それまでは見向きもされなかった阿波うるしのお椀が、漆に対して目が肥えた方がごらんになるようになって、「このお椀ってどうして売ってくれないのかしら」と言われることしばしばです。(※サンプル現品かぎりなのです)

本当に、不思議なものだなあと思います。

※追記。当時の会場の写真です。
7/16当時の会場2
これも懐かしいなあ…。
今はもうない高松市商店街の貸しギャラリーさんです。(三越高松店さんのすぐ近く)
いま見ると、かなり自由な展示をしています…。その代わり、搬入と飾り付けはギリギリでした。とても疲れて厳しかったけど、やっぱり楽しかったな。

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posted by 宮崎佐和子 at 20:53| Comment(2) | TrackBack(0) |   阿波うるしについて

2008年07月15日

■浄法寺漆の椀と、阿波漆の椀。

今日は、珍しいものを紹介したいと思います。
本当にちょっと変ったものです… 何かと言うと、

産地・採取者の違う漆のお椀ですexclamation
作品展会場に、サンプルとして必ず置いているものなので、来場された方は手にされているかもしれません。^^

(クリックで写真が拡大します)7_14_wan_1_.jpg
同じ材(トチ材)同じ形のお椀に、
同じ回数同じ仕事をした椀2個です。

違うのは、漆だけ。(もちろん、どちらも日本産の生漆100%です)どちらも塗りっぱなしで、漆そのままの塗膜の表情です。
これをごらんになった方(特に漆をされている方)は、非常に驚かれるんですよ。
一般のお客様は「片方が黒っぽくてすごい艶消し、片方はぴかぴかで色が全く違う」ということに驚かれます。
漆をされている方の多くは「片方の、この透明度の高い漆はいったい何だ」とびっくりされます。

ひとことで『日本産うるし』と言っても、こんなに表情に違いがあるものなんです。おもしろいと思いませんか?


バッド(下向き矢印)(クリックで写真拡大します)
7/14浄法寺漆の椀
2000年 大森俊三採取 
岩手県産 盛漆(生うるし)


これは、もと松本が自分用にごはんを食べていたお椀でした。
1年くらい、週2、3回使っていたでしょうか。あまりにもよく浄法寺漆の(というよりも大森俊三さんの)特長が出ている漆だったので、私の一存で?展示見本として昇格させました。
(松本は『ぼくのお椀が…』と悲しそうでしたがたらーっ(汗)

漆の色はよく「飴色」と表現されます。
でも、この漆はどことなく赤紫っぽい色をしているような気がします。単なる「飴色」という色表現ではあらわしにくいような感じです。
そして、こうした色味は東北の漆の特長のように思います。


バッド(下向き矢印)さて、2007年の裏目漆かきですが、この漆を採った大森俊三さんの仕事の動画です。
    ※現在はリンク切れとなっています。

なお、この浄法寺漆のお椀は、かなりの艶消しの塗り肌になっていますよね。中にこのお椀を見て「浄法寺の漆なら、必ず艶消しに塗りあがる」と早合点する方がいらっしゃいますが…。必ずしもそうとはかぎらないんです。
(ぴかぴかの艶の塗り上がりになる浄法寺漆も、中にはあります)

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バッド(下向き矢印)さて、次は注目の徳島のうるしのお椀です。
7/14阿波漆の椀
2001年 松本和明採取
徳島産 盛漆(生うるし)


正真正銘のレアものの漆です。この透明感(すり漆ではないんです、溜めです)、太陽のような黄金色。私は、この漆を見るたび、オレンジのような果実を思い出してしまいます。
こういった漆が、流通に出回ることはまずありえません。
なぜなら…
これは、松本自身が「自分好みに仕立てて採った」うるしだからです。
日本うるし掻き技術保存会の漆掻き研修から香川県に戻った翌年に、隣県の徳島県(三好郡山城町 ※阿波池田や祖谷の近く)に通って、漆掻きをしました。
メタテの時期、キズを付ける位置・形、漆掻きのタイミングなど、「最高」を求め、仕立てて採ったのです。
四国の「阿波うるし」の特長が最大限に生きていると思います。

1229徳島スかき.jpg
徳島での漆かきの様子。

これもよく早合点されるのですが「阿波うるし」だからこんな透ける金色の漆になる、というわけではないんですね。(同じ『阿波うるし』でも東官平さんの採った漆とはまったく表情が異なります)
…と、いくら説明しても納得してくれずに漆関係の方に「この漆を売ってくれ」と言われることもあったりします。(とある無形文化財の方にもそう言われ、説明しても納得してくれず。その方のいる地域は阿波うるしの苗をいろいろ手配して入手されたようです。その土地で阿波の苗を育てても、これとおなじ漆が採れるとは限らないのですが)

いろいろ物議を醸す?二つのお椀を並べて。
7/14浄法寺漆の椀と、阿波漆の椀

…改めて見ても、同じ回数だけ同じ『日本産うるし」を塗ったお椀には見えません。あせあせ(飛び散る汗)
『中国産うるし』と『日本産うるし』という対立だけで見られてしまう日本産うるし。
でも単に『日本産漆』とだけ表現されるうるしも、こんなに表情が違う、と言うことを分かりやすくお見せするために用意したサンプル椀なのですが、ちょっとした火種のもと?になることもあるのも、事実です。

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この日本産うるしの多様性も、いろいろ考えられる要素がいっぱいあって、このブログの一つの記事で説明しきれない、というのが正直なところです。(そして、今は漆関係者が目を見張ってごらんになる阿波うるしのお椀も、悲しい過去があります)
いつか、少しずつご説明していきたいと思います。


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posted by 宮崎佐和子 at 21:19| Comment(8) | TrackBack(0) |   阿波うるしについて
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